「価値」をあげるか 「家賃」を下げるか②
家賃を下げれば、部屋は「どこか」の水準で必ず決まりますので、空室を埋めるための有効な手段であることは間違いありません。しかし、そのデメリットについても理解しておくべきです。
まず値下げすれば収益が減り、やがてキャッシュフローがマイナスになる危険があります。現金の「持ち出し」が必要になる事態です。
さらに収入が減ると経費が使えなくなりますので、建物設備の老朽化に拍車がかかり、またさらに賃料の低下を招きます。老朽化の「負のスパイラル」に陥ると、最後の取り壊しまでの数年間が最悪の経営となってしまいます。
つぎに「借主の質」が低下することも心配です。同じ間取タイプでも、低額の家賃を希望する借主が集まることになります。家賃滞納やトラブルが増えることが懸念されます。
建物を取り壊す時の「立退き料負担」が重くなるケースも考えられます。「低額家賃しか負担できない借主」だけが残ると、立退き交渉が難航しやすいのです。オーナー様が転居費用を負担して、家賃の補助もしなければならなくなるでしょう。
以上のように「家賃の値下げによる募集」にはデメリットがありますが、一方で費用負担なしで借主を獲得できる効果は間違いありません。最近のお客様(借主)は、同じ間取タイプでも高額家賃のお部屋を望む層と、低額家賃を探す層に二極分化されて、中間の家賃層が決まりにくい傾向がある、という意見や見方もあります。秤のバランスを戻すための「ひとつ」の選択肢であることは事実です。
価値の錘(おもり)を重くするには
つぎは、左側の錘(おもり)を重くする方法を考えてみましょう。これには、運営コストを負担する必要がありますが、どのように効率よく「お金を使うか」がカギとなります。
まず「借主の退去を防ぐ」ためにお金を使う方法です。共用部分をいつも綺麗に保って、設備が壊れる前に取り替えたり、新しい設備を追加したりすることによって、出来るだけ長く住んでもらえるようにするのです。退去が減れば、そもそも空室対策に悩む必要がありません。
つぎに「賃貸条件を緩和する」ためにお金を使う方法です。「ペット可」にするならペットのための専用設備が必要です。これからますます、ペット可の物件も増えるでしょうから、「ペットと暮らしやすい」という差別化が必要になります。「高齢者OK」とするなら、バリアフリーなどへの対応や、孤立死を防ぐための手段が必要です。たしかにリスクもありますが、これから増える一方のマーケットですので、無視するワケにもいきません。
そして、「部屋をグレードアップする」ためにお金を使う方法です。壁にアクセントクロスを採用したり、照明器具に洒落(しゃれ)たものを選ぶとか、家具や家電をセットして「そのまま」貸すなどのアイデアがよく聞かれるようになりました。築20年を過ぎてくると借主のニーズに合わなくなっているので、「間取の変更」という手段も考えられます。費用負担は多額になりますが、建物の一生の「折り返し点」なら、費用対効果の合う計画も立てられるのではないでしょうか。
最後に、「建物の外観を維持する」ためにお金を使う方法です。外壁塗装や防水処理は、建物を長く維持するためには不可欠な工事で、これを怠ると寿命が短くなることもあります。これは大規模修繕工事の範疇(はんちゅう)になりますが、家賃とのバランスを合わすために「積極的に行う」ことも、空室対策のひとつです。
以上のように、左側の錘を重くしてバランスを合わせるための手段は様々です。
左側の「価値の錘(おもり)」を重くするか、右側の「家賃の錘(おもり)」を軽くするかを考えてきました。いずれにしても秤(はかり)のバランスを合わせることが、空室対策の出発点として重要であることはご理解いただけたのではないでしょうか。あとは、この「目に見えない秤のバランス」を、どのように正確に把握するかという問題です。そしてどの対応手段が、オーナー様の賃貸経営の目的に沿っているかという選択です。
そのためにオーナー様には、管理会社が存在しているのです。