とうま編集長の本棚101「空室対策はお金よりアイデアです」
この本の批評の中に「すでに公開されている空室対策のアイデアばかり」というのがあって購読を躊躇したのですが、「6000件の退去立会いを経験しているリフォーム業者」の意見に興味があったので購入してみました。著者独自の発見が随所にありましたので紹介させていただくことにしました。以下、著者ならではの「見かた」を抜き出して列挙してみましょう。
・同じ建物の中に複数の空室があってリノベーションするときは、最低2パターンのお部屋(たとえば“和モダン”とか“アジアンテイスト”とか)を作るべきです。仮に5部屋の空室があったらAとBの部屋をつくり、先にAが決まったら次の部屋はAにする、という具合です。もしAが気に入らなくても、Bを気に入ってもらえることがあるかもしれません。
・入居が決まるかどうかは、「部屋」「募集条件」「営業」のバランスがとれているかどうかが大切です。特に、オーナーと管理会社の「営業(売り込み)の努力」が足らないケースが多いのではないでしょうか。
・お部屋づくりは「四方よし」を目指すべきです。四方とは、「大家さん」「入居者さん」「仲介会社」「管理会社」のこと。入居者は、快適に暮らせる部屋に住める。仲介会社は契約いただいて仲介手数料や広告宣伝費がいただける。管理会社は部屋が決まることで責任を果たせて管理料もいただける。そして大家さんは投資の見返りに「家賃」という対価を得ることができる。これが「四方よし」の考え方です。
・良い仲介会社は、入居が決まらない要因と、改善する方法を提案をします。悪い仲介会社は、決まらない理由ばかり並べて言い訳します。
・良い管理会社とリフォーム会社は、リノベーションするときに、入居者のターゲットや、それに合う家賃設定や工事の提案をします。悪い管理会社とリフォーム会社は、誰が住むかも気にせずに、分かりにくい見積もりを提出します。
・オーナーが陥ってはいけない負のスパイラルがあります。①やるべき修繕やリフォームをしないので入居が決まらない。②家賃を下げて決めようとする。③質の悪い入居者が入ってくる。④施設内が荒れるので良い入居者が退去する。⑤さらに空室が増えて収益が悪化する。手に入った資金(家賃)の一部は入居者に還元(つまり投資)して、負のスパイラルに陥らないようにすべきです。
・室内に収納スペースを多くしておくと、入居中に荷物が増えるので、収納の少ない物件には引っ越さなくなります。
・退去立会いは、設備の不具合や、住み心地や、希望の設備など、お客様のニーズを聞き出せる絶好のチャンスです。そして退去立会いの重要な目的は、原状回復工事だけで次の入居が決まるか、プチリノベーションでアクセントをつければ決まるか、本格的にリノベーション工事をしないと決まらないのか、これらを判断することです。
・空室対策で成功するポイントは、入居者のニーズを知ることです。誰に住んでもらうか決まっていない、お部屋づくりのコンセプトもない、アピールポイントもなく何となく作った商品では、大家さんも買わないのではないでしょうか。
築15年以降のアパート経営について、空き室が長期化した場合、大家さんの立場として家賃値下げするかもしくはリフォームして家賃を維持するかの選択肢がありますが、まずはお客の声を聞いた方が良いと感じました。
退去立会いの場数を踏んだリフォーム業者ならではの考えが伝わる一冊でした。