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相続放棄とは何かをわかりやすく解説|3か月のタイムリミットに注意!

相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産に関する一切の権利義務を受け継がないという選択。被相続人の財産がプラスの財産だけではなく、借金やローンの残額などのマイナスの財産も含まれるなど、負債が多い場合に検討されることが多い手続きです。

相続放棄には熟慮期間が定められており、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に対して申述を行う必要があります。そこでこの記事では、相続放棄に関する具体的な進め方やメリット・デメリットなどをわかりやすく、かつ詳しく解説します。

この記事は、宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石秀彦が制作しました。

相続放棄が認められる法律上の根拠

相続放棄とは、民法第940条から943条に定められている手続きです。

  (相続の放棄の方式) 第九百三十八条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力) 第九百三十九条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。 

ただし、民法第940条では、相続を放棄した者は、その放棄によって新たに相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産における場合と同様の注意をもってその財産の管理を継続しなければならないと定められています。


つまり、相続放棄をしたからといってすぐに管理責任がなくなるわけではなく、自分の代わりに相続人となった者が相続財産の管理を始めるまでは管理に関する義務を負うことになります。

相続放棄と財産放棄・限定承認の違い

ここまでに確認したように、相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務の一切を承継せず、放棄することを指します。

しかし、一般的には間違って用いられることが多い用語でもあります。

よく「私はあの家を相続放棄して、兄弟に譲った」という話をする人がいます。しかし特定の不動産を相続しないことは相続放棄といえません。

特定の不動産だけを相続しなかった場合は、法律上の相続放棄とはまったく違います。それは特定の財産に関する「財産放棄」であり、相続放棄とは、被相続人の権利義務の一切を相続しないことを指します。

ただし、例外的な手続きがあります。

それが「限定承認」と呼ばれるものです。限定承認とは、相続によって得た財産をプラスの範囲内で、被相続人の債務を引き受ける(受け継ぐ)という方法です。これは被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、プラスの財産が残る可能性もある場合などに利用されます。

ただし限定承認には相続人全員の同意が必要で、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ相続の限定承認を申述する必要があります。家庭裁判所の審判により熟慮期間の延長が認められることもあります。

また、被相続人のすべての相続財産を無制限・無条件に相続することを「単純承認」と呼びます。

「財産放棄」という法律用語はありません。相続放棄と区別するために使用している俗称です。

相続放棄のメリット・デメリットを一覧で確認

相続放棄を選ぶべきか避けるべきか。そのヒントとして、メリットとデメリットを整理しておきましょう。

相続放棄には、被相続人の借金、負債等を引き継がなくてもすむというメリットがありますが、同時にその他の財産を相続する権利もなくなります。そこで、一般論として相続放棄を行うには慎重な判断が必要といえます。

メリット①借金(マイナスの財産)を引き継がなくて済む

これが最大のメリットです。被相続人に多額の借金、ローン、保証債務、未払いの税金などがあっても、相続放棄をすれば一切支払う義務がなくなります。自分の財産を守ることができるわけです。

メリット②遺産相続トラブルに関わらなくて済む

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされるため、他の相続人間で行われる遺産分割協議に参加する必要がなくなります。相続財産の分け方をめぐる争いや、複雑な手続きから解放されます。

メリット③手続きが限定承認よりシンプル

限定承認は相続人全員での手続きや財産目録の提出、清算手続きなどが必要で複雑ですが、相続放棄は相続人単独で家庭裁判所に申述すればよく、手続き自体は比較的シンプルです。

デメリット①プラスの財産も相続できなくなる

借金だけでなく、預貯金、不動産、株式、自動車、骨董品など、価値のある財産も一切相続できなくなります。たとえ借金よりプラスの財産が多かったとしても、放棄した場合は受け取れません。「この財産だけ欲しい」という選択ができないのです。

デメリット②原則として撤回(取り消し)ができない

一度、家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されると、後から「やはり相続したい」と思っても、原則として撤回することはできません(詐欺や脅迫があったなど、特別な事情を除く)。後から価値のある財産が見つかった場合でも同様です。

デメリット③次順位の相続人に相続権が移る

相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったことになるため、相続権は次の順位の相続人に移ります(例:子が全員放棄すると、被相続人の親(祖父母)。それもいなければ兄弟姉妹へ)。借金などの負担も次順位の人に移る可能性があり、その人も相続放棄を検討する必要が出てくる場合があります。そこで、関係者に事前に相談・説明しておくことが必要です。

デメリット④熟慮期間(3か月)が短い

相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。この期間内に財産調査(プラスの財産とマイナスの財産の把握)を終えて判断しなければならず、時間が足りない場合があります。期間伸長の申立も可能ですが、理由が必要です。

デメリット⑤生命保険金や遺族年金等との関係(注意点)

相続放棄をしても、受取人に指定されている生命保険金や、遺族としての資格に基づいて受け取る遺族年金などは、通常、相続財産とはみなされず受け取ることができます。ただし、保険契約の内容等によっては判断が異なる場合もあるため、確認が必要です(この点は厳密にはデメリットというより注意点ですが、放棄の影響範囲として知っておいてください)。

手続き期限は3か月!早めに準備しましょう

相続放棄とは、自分のために相続が発生したことを知った時から3か月以内に、管轄の家庭裁判所へ必要書類を揃えて申述書を提出して行う手続きです。その後、裁判所からの照会(あれば)に回答し、受理されれば完了します。

以下に、具体的なステップをわかりやすくまとめました。


  • 期限内に家庭裁判所へ申述する

    相続放棄をするためには、家庭裁判所へ「相続の放棄」を申述する必要があります。3か月の期間は、家庭裁判所の審判により伸長することが可能です。


  • 必要書類を準備する

    相続放棄の申述に必要な書類は、被相続人との続柄によって異なります。一般的に必要な書類は以下の通りです。

    • 相続放棄申述書
    • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
    • 自分自身の戸籍謄本(全部事項証明書)

    その他、被相続人の子や直系尊属など、先順位の相続人が死亡していることを示す戸籍謄本等が必要になる場合があります。


  • 家庭裁判所での手続き

    家庭裁判所に申述書と必要書類を提出します。申述が受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。この通知書を受領した時点で相続放棄の手続きは完了となります。
    相続放棄が受理されたことを第三者(債権者など)に対して証明したい場合は、家庭裁判所に申請して「相続放棄申述受理証明書」の発行を受けることができます。


相続放棄が一度受理されると、原則として撤回できません。また、相続人全員が相続放棄をした場合など管理を引き継ぐ人がいない場合は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てる必要があります。申立人は費用(予納金)の納付を求められることが通常です。相続放棄とは何かを正しく理解するには、相続税との関係も把握しておく必要があります。相続税の計算においては放棄がなかったものとして扱われるためです。

相続放棄を行う場合の費用感と具体的な手続き

相続放棄の手続きにかかる費用相場は、誰が手続きを行うかによってかなり違ってきます。

手続きを行う人費用相場(一人あたり)主な内訳・備考 (資料より)
自分で行う場合3,000円 ~ 5,000円 程度実費のみ:・収入印紙 (800円)・戸籍謄本・住民票除票等の取得費用・連絡用郵便切手代 ※必要な戸籍の数などで変動
司法書士に依頼3万円 ~ 5万円 程度専門家報酬 + 実費・書類作成・提出代行が中心・報酬内訳例: 相談料、書類作成代行(戸籍費含む場合有)、代理手数料
弁護士に依頼5万円 ~ 10万円 程度専門家報酬 + 実費・書類作成・提出に加え、広範な法的助言や複雑なケース、債権者対応なども可能・報酬内訳例: 相談料、書類作成代行(戸籍費含む場合有)、代理手数料

弁護士や司法書士の費用相場には法律で定められた「定価」があるわけではありません。弁護士や司法書士の報酬は現在自由化されており、各事務所が独自に設定しています。

そのため、相談する事務所によっては上記の目安から外れる場合もある点に注意してください。

手続きを自分で進めるか専門家に依頼するか  

申述人が被相続人の配偶者であるケースや、申述人である子が未婚で被相続人である親の戸籍に含まれているケースなど、集める書類が少ない場合は比較的難易度が低いとされており、自分で手続きをすすめるのに適しています。

一方、3か月の熟慮期間が経過しそうな場合や、申述人が未成年である場合(特別代理人の選任が必要になることがあるため)、相続財産の調査や債権者への対応も含めて任せたい場合は、司法書士などの専門家に依頼してください。

自分で手続きを進める場合、すでに述べたように、被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本と自分自身の戸籍謄本を用意したら、相続放棄の申述書を作成し、家庭裁判所で相談することになります。

相続放棄の申述書は、裁判所のホームページからダウンロードできます。

上記のページでは、PDFとWord形式で相続放棄申述書のひな形がダウンロードできるほか、具体的な書き方見本もダウンロード可能です。

相続放棄しても管理責任は残る? 

被相続人の財産に関する一切の権利や義務を引き継がないことになりますが、民法には管理責任が定められています。

相続の放棄をした人は、その放棄によって相続人となった人が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければいけません。

相続放棄によって次の順位の人が相続人になった場合や、他に相続人がいなくなった場合に、相続財産が放置されてしまわないようにするため、このような義務が定められています。

他に管理を引き継ぐ人が誰もいない場合は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることができますが、一般的には裁判所に費用の予納(前払い金)を収める必要があります。金額は、それぞれの不動産によって変わりますが、数十万円になることも珍しくありません。

このように、不動産を含む相続財産を相続放棄した場合でも、管理を引き継ぐ人が現れるまでは管理責任が課されるという点に注意してください。

「相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまったが、不動産の管理を避けたい」という場合は、次の章で説明する、相続財産国庫帰属制度を検討してみてください。

国庫帰属制度との比較で見る判断ポイント

相続放棄とよく比較される相続土地国庫帰属制度。それぞれの制度には似ている点があるものの、内容はかなり違っています。

そこで、各制度の特徴とメリット・デメリットをわかりやすく比較しながら解説します。

相続放棄はどんな場合に選ぶべき?

相続放棄とは、相続人が「最初から相続人ではなかった」とみなされる制度です。すでに述べたように、家庭裁判所に申述し、受理されることで効力が発生します。

相続放棄はここがいい点

相続放棄のメリットは、借金などマイナスの財産を一切引き継がずに済む点です。たとえば、亡くなった人が多額の借金を抱えていた場合でも、その返済義務を免れることができます。

また、売却・活用ができない不動産や管理が困難な土地など、「不要な財産」すべてから解放されます。相続放棄が成立すれば遺産分割協議への参加も不要となり、相続人同士の争いから距離を置くことも可能です。

手続き自体も比較的シンプルで、司法書士を利用しなくても個人で対応できる場合が多く、費用は数千円程度で済む場合もあります。

相続放棄のマイナス点

一方で、プラスの財産(預貯金や自宅など)も一切相続できなくなるという大きなデメリットがあります。たとえば、「土地だけ放棄したい」といった選択はできません。

また、一度受理された相続放棄は原則として撤回できません。加えて、自分が相続放棄すると、次順位の相続人(兄弟姉妹や甥姪など)に相続権とともに負債が移る可能性もあり、親族間でトラブルになる場合もあります。

申述期限が「相続開始を知ってから3か月以内」と短いため、迷っているうちに申請できなくなるケースもあります。

相続土地国庫帰属制度はどんな場合に選ぶべき?

相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した土地を、一定の要件を満たしたうえで国に引き取ってもらう制度。2023年にスタートした比較的新しい仕組みです。

相続土地国庫帰属制度はここがいい点

この制度の大きな利点は、不要な土地だけを手放し、それ以外の財産(預貯金や自宅など)は相続できるという点にあります。

また、相続放棄と異なり、相続開始から3か月以上経過していても利用可能です。そのため、「相続放棄の期限が過ぎてしまったが、土地の管理が難しい」といったケースでの救済手段となります。

加えて、申請は相続人全員でなくてもよく、土地を取得した一人の相続人からでも手続き可能です。要件を満たして承認されれば、固定資産税や管理責任からも解放されます。

相続土地国庫帰属制度のマイナス点

ただし、この制度を利用するには厳しい条件があります。対象となるのは原則として建物のない更地であり、境界が明確で、管理が容易な土地に限られます。共有名義の土地や崖地などは原則対象外です。

また、申請時には審査手数料1万4千円に加え、負担金(最低でも20万円以上)を納める必要があります。

さらに、申請しても要件を満たさない場合は不承認となり、土地を手放すことができません。制度自体が始まって間もないこともあり、実務的な運用事例や審査基準がまだ安定していないという側面もあります。

ゼロ円で不動産を譲渡するサイトも利用できる

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相続放棄や相続財産国庫帰属制度との違いは、手続きを自分で行えば、完全にゼロ円で不動産を譲渡できる点です。運営に手続きをお任せした場合でも、税込165,000円と格安に処分できます。

上記のサイトは、「こんな物件がゼロ円で手に入るのか」と眺めているだけでも楽しいので、一度のぞいてみてもおもしろいと思います。

まとめ:相続放棄をすべきか判断する

相続放棄とは「借金などマイナスの財産も含めて一切の相続をしない」という法的手続きです。また、申述期限は3か月以内と短く、放棄後は原則撤回ができません。そのため、早め早めの判断と準備が必要です。

この記事では、相続放棄の意味や法律的根拠、限定承認との違い、メリット・デメリット、手続きの具体的な流れまで、「相続放棄とは何か」をわかりやすく網羅的に解説しました。この記事を読むことで、相続放棄をすべきかどうかの判断軸が明確になり、不要な借金や不動産のトラブルから身を守る第一歩が踏み出せるはずです。

とはいえ、「相続放棄すべきか迷っている」「どこに相談すればいいかわからない」という方も多いでしょう。

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