飲食店の開業には資金や設備、営業許可などさまざまなハードルがあり、未経験の方にとっては不安も大きいはずです。また、競争が激しく、成功するにはよほどのストロングポイントが必要だともいわれます。
そこでこの記事では、実例を交えながら、空き家でのカフェ開業を解説します。
たとえば「ひろしげ珈琲倶楽部」はセオリーにとらわれず、自然体で空き家カフェを成功させた事例です。築100年の祖父母の家をそのまま活用し、地域のつながりを生かしてカフェをスタート。16年にわたって、地域に愛され続けるお店となりました。
この記事では、実際の成功事例をもとに、空き家をカフェとして活用するメリット・デメリット、そして開業の具体的な流れを紹介します。開業資金を抑えながらも、地域の人々に愛されるカフェを作るにはどうすればいいのか? ぜひ、最後までお読みください。
この記事は、宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石が作成しました。
おすすめのカフェ「ひろしげ珈琲倶楽部」さんの事例

空き家カフェを開業するにあたってコンサルに相談したら「飲食店開業には明確なコンセプトと差別化戦略が必要だ」と、堅い答えが返ってくるかもしれません。
しかし、南大阪エリアにある「ひろしげ珈琲倶楽部」は、そんなセオリーに従ってオープンしたお店ではありません。
大工の棟梁だったひいおじいちゃんが建てた古い家をそのまま利用。これが独特の懐かしい雰囲気を生んでいます。加えて、すぐれたコーヒーの焙煎技術を持っていたことが人気を支えてきました。
コンサルがいうような形どおりの「コンセプト」がなくても、他店にない魅力さえあればお客さんが集まってくるという事例です。
出店の経緯とコンセプト

ひろしげ珈琲倶楽部のオーナー辻さんは、「最初は喫茶とかはやる気がなくて、豆の焙煎場として祖父母の古い家を使い始めたんです」といいます。
はじめからカフェとしてのコンセプトをガッチリと決めたわけではなく、病院のケースワーカーとして仕事をするかたわら学んできた、コーヒー豆の焙煎がスタート地点でした。
もともとお店には看板もなく、建物も古いまま。
辻さんが豆を焙煎していると、近所の人たちが「何をやってるの?」と興味を持ってのぞきはじめ、やがて「コーヒーを飲みたい」という話になりました。飲食業の許可を取っているわけでもなかったので、まずは試飲という形でコーヒーを飲んでもらい、やがて営業許可をとって本格的にカフェを開業します。

そこからまたカフェの学校に通い、勉強の日々を送りました。
サラリーマンを続けていたことで、在職中に焙煎機のローンを完済するなど、金銭的なリスクは最小限に抑えられましたが、体力的にはたいへんだったそうです。
カフェ営業で苦労した点・よかった点
ひろしげ珈琲倶楽部は取材時点(2025年2月)で、カフェを開業し、脱サラしてから16年になります。様々な苦労があった中、新型コロナウィルスのパンデミックの時は「お店がつぶれるかも」と思ったそうです。
2020年、2021年は規制や自主規制の要求が強く、お店を営業できる雰囲気ではありませんでした。ひろしげ珈琲倶楽部もお店を閉め、電気が消えた暗い室内で「怖いな」と感じたといいます。
しかし、幸いなことにコーヒー豆の販売は続けることができました。
当時、テイクアウトやデリバリーを自宅で食べる「中食」が流行りましたが、コーヒーを家で消費する人も増え、それがコロナの時期のお店を支えてくれたそうです。また現在でも、多くの飲食店にコーヒーを卸しています。

最後に「お店をやってみてよかったですか?」と尋ねてみました。
辻さんは「もちろん、これは大正解だったと思います」と答えてくれました。お店をやっていたからこそ、たくさんの人と知り合い、たくさんの人が来てくれることが、一番よかったと感じるそうです。
ジャズピアニストの秋田真治さんをはじめ、様々なアーティストがライブをしていく不思議な縁もあります。
「仏壇の前で秋田さんがライブ演奏しているのも、不思議な感じがしますね」
辻さんはそういいますが、古い日本建築のもつ魅力と、自然体でおいしいコーヒーにこだわるオーナーの魅力が、アーティストをひきつけているのだと感じます。
ひろしげ珈琲倶楽部
住所:大阪府泉南郡岬町淡輪1478-1
電話:072-486-4500
空き家をカフェにするメリット・デメリット

空き家を活用してカフェを開業するのは魅力的な選択肢ですが、成功させるには事前の準備が重要です。物件の立地やターゲット層、開業資金の計画をしっかりと立てることで、長く愛されるお店を作ることができます。
また、カフェ経営には飲食店営業許可や保健所の基準をクリアする必要があり、最低限の設備投資も求められます。さらに、近年のカフェ市場は競争が激しく、SNSや地域のネットワークを活用した集客戦略も欠かせません。
この記事では、空き家をカフェとして活用する際の具体的なメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
空き家カフェのメリットは低予算で趣味の拠点が持てること
空き家をカフェにする最大のメリットは、お金を掛けずに営業をスタートできることでしょう。業務用の冷蔵庫、コールドテーブル、レンジなどを揃えることができればベストですが、最初は家庭用のもので代用しても営業できます。
また、自分の趣味を生かした店舗づくりができるのも魅力です。
音楽好きな人であれば、ステージを作ってミニライブやオープンマイクを開催したり、ウクレレ教室を運営している方もいます。
結果として、地域の人たちが集まり、趣味の場として活用している事例もよく見かけます。
デメリットは意外と競争が激しい点
実はカフェ業界は参入障壁が低く、競争が激しいという現実があります。近隣にカフェが立地していなくても、コンビニエンスストアやスーパーもカフェメニューに力を入れている昨今、低価格のライバルとの競争も想定する必要があります。
その点、近隣のカフェのみを競合と考えると、市場を見誤るかもしれません。
たとえば、あのマクドナルドでさえ「マックカフェ」では苦戦しています。2009年にマックカフェがスタートしたとき「スターバックスをしのぐ事業になる」といわれていましたが、実際には目立った成果をあげていません。
そんな業界に参入するわけですから、競合店舗にない独自の魅力を打ち出す必要があるでしょう。
2025年の飲食店のトレンドは?

帝国データバンクによると、2024年は飲食店の倒産が過去最多となり、負債1000万円以上の法的整理が894件にのぼりました。これは前年比で16.4%増です。
その背景には、急速に進行した円安による物価高や、人手不足による人件費増加など、昨今の経済事情があります。
また、今後数年間は飲食店にとって厳しい状況が続くといわれています。物価高や人手不足が落ち着くことは予想できないからです。
そこで、空き家を活用してカフェを開業する場合でも、しっかりしたリサーチに基づいた、魅力的な店舗運営を行う必要があります。
「飲食店」の倒産動向調査(2024年)|帝国データバンク
空き家を活用してカフェを開業する流れとノウハウ

写真は、筆者が沖縄県糸満市で経営にかかわったカフェ。その他に1店舗経営した経験があるため、カフェ開業については、ある程度具体的なノウハウをシェアすることができます。
カフェを開業すること自体はさほど難しくありません。しかし軌道に乗せるのはたいへんです。
その点を踏まえて、具体的なカフェ開業の手順を見ていきましょう。
手持ち物件を活用するか空き家を借りるか?
一般に、飲食店の利益率は他業種に比べて低いといわれます。
飲食店ポータルの「食べログ」によると、飲食店の利益率は10%程度を目標に設定するのがよいとされますが、実際には5~8%のケースが多いようです。
そのため、できれば経費を抑えられるように「手持ち物件を活用する」というプランをおすすめします。もし「お店を借りてでもカフェを開業したい」ということであれば、かなりしっかりとした事業計画を立てる必要が出てきます。
飲食店の利益率の平均は?計算方法と低い原因、上げるコツを紹介|食べログ
コンセプトを決め予算に落とし込む
一般に「飲食店出店時のコンセプト設計は非常に重要だ」といわれます。
記事冒頭で紹介した「ひろしげ珈琲倶楽部」さんは、事前にコンセプト決めをしていませんが「築100年の古民家をそのまま使う」「そもそもコーヒー焙煎のすぐれた技術があった」といった点は、他店との差別化ができる、明快な個性となっています。
しかし一般的には、まず市場調査を行い、コンセプトを決め、内外装にそのコンセプトをビジュアル化するというステップを踏みます。
リノベーションと内装デザインを決める
コンセプトを内外装デザインに落とし込み、店舗のリフォームを行う必要があります。DIYでも店舗の改装は可能ですが、その場合、店舗設計に必要な知識を独学で学んでおく必要があります。
たとえば、来店客1人あたり2㎡、余裕を持たせるなら4㎡のスペースを確保すべきで、そのためにまず厨房やパントリーなどを差し引いたフロアの面積を割り出します。
次に、そのフロア内にテーブルや椅子をどう配置するかを検討します。
この時、最低でも60cm幅の通路を確保するように設計します(椅子を引いた状態で60cm以上)。もしゆったりとした店舗とする場合は、80cm以上の通路をとるべきでしょう。
ここに示した数字は一例に過ぎず、他にも多くのノウハウやセオリーが存在します。そのため、自信がない場合は、プロに設計をお任せした方が安心といえるでしょう。
また、飲食店に必要な設備も定められているため、あらかじめその地域を管轄する保健所に相談しておく必要があります。
飲食店開業の許可申請と手続き
飲食店の開業に最低限必要な資格は「食品衛生責任者」。難易度は高くなく、1日の講習を受講することで資格取得できます。
各都道府県の食品衛生協会が開催する「食品衛生責任者養成講習会」を受講すると、講習の最後に終了テストが行われ、合格すれば資格をもらえます。講習はおよそ6時間程度で、受講料は12,000円前後(都道府県によって異なる場合があります)。
飲食店の営業許可証は、そのエリアを担当する保健所に申請します。申請時には、営業許可申請書のほか、営業設備の配置図や、申請者の身分証明書などを添付する必要があります。添付書類については、事前に保健所窓口で確認しておいてください。
メニュー開発と利益率(原価率)計算
飲食店のメニューについて、原価率は以下の式で計算します。
原価率 (%) = (原価 / 販売価格) × 100
一般にフード類の原価率は30%程度に設定しますが、25~40%程度の幅を持たせ、とくに利益率が低い集客メニューを設定する場合もあります。こういったメニューのことを「ロスリーダーメニュー」と呼びます。
また、ドリンク類の原価率は25%を目安に設定します。
それを踏まえて、近隣の競合店舗を試食・調査し、価格設定と客層を分析します。地域住民の趣味嗜好や、受け入れられる価格帯についても整理し、メニュー開発の参考とします。
平行して、食材の調達ルートやコスト分析を行い、メニューを完成させます。
開業し集客をスタート
内装工事が終わり、保健所の営業許可が出たら、開業して集客をスタートします。これがゴールではなく、ここからが本番です。
マーケティングや集客には工夫が必要で、時間もかかります。しばらくの間、お客さんが少なくても持ちこたえられるような資金計画も重要です。
最近のGoogleのアルゴリズムを考えると「ブログで集客」というのも現実的ではありません。このジャンル(SEO)は筆者の専門領域ですが、どちらかというと一般の方がブログで集客するのはやめておいたほうがいいと思います。
むしろSNSをメインに集客し、地域イベントなどにもどんどん出店して顔を売るという方法がおすすめです。
また、MEO(ローカルSEO)対策も必要です。MEOについては長くなるので、以下の動画を参照してください。
空き家カフェ成功の秘訣とQ&A

この章では、カフェ開業についての必要資金と、成功している空き家カフェ・空き家ビジネスの事例をヒントとして、独自コンセプトを考える手がかりをピックアップしました。
カフェ開業に必要な資金は?
一般的に、普通にカフェを開業するとしたら500~1000万円程度の資金が必要とされます。内訳を見てみましょう。
家賃や保証金 | 当初家賃の1年分を用意 |
設備投資 キッチン、内装、家具など | 200~500万円程度 |
広告費等 看板など | 50~100万円程度 |
その他 許可申請費用や保険、通信費など | -- |
加えて当初運転資金には、売上が安定するまで(少なくとも6か月)の人件費や仕入れ費用、光熱費を用意しておきます。
しかし、手持ちの空き家を利用し、小さくはじめることで資金を圧縮することができます。筆者の知人には、知り合いのツテで空き室を安く借り、手持ち資金100万円程度で事業をスタートした人もいます。無理をせず運営していたので、お店は10年以上続いています。
カフェ以外の空き家活用事例は?

岡山県真庭市久世上町には、商店街の空き家を活用したミニシアターがあります。
市民有志が集まり、手作りで空き家を改修。子どもも大人も楽しめるような小さな映画館を目指して開業しました。上映する映画は、スタッフこだわりのセレクト。過去には諏訪敦彦・イポリット=ジラルド監督の「ユキとニナ」や、音楽ドキュメンタリー「Born Balearic 太陽と踊らせて」など、キラリと光る名作が上映されています。
また、和歌山県和歌山市の加田にはクラウドファンディングで作られたホームシアター付きの宿泊施設「kanatoko」があります。空き家+クラファンという組み合わせでも、様々な活用の可能性が考えられます。

クラファンなどkanatokoオープンまでの詳しいいきさつは以下のリンク先で読めます。
空き家を活用して地域活性につなげた事例は?

空き家を活用して地域活性化につなげる取り組みは、様々な自治体で行われています。とくに、空き家と移住者をマッチングするような施策は多くの都道府県、市町村が用意しています。
一方で、制約の多い行政のサポートを利用せず、クラウドファンディングで空き家活用をはかる事例も増えてきました。その中でも、鹿児島県南さつま市の「books & cafe そらまど」は有名な事例です。
このお店は、元文部科学省の官僚だったオーナーがお父さんの故郷である南さつま市に移住し、農業を営むかたわらクラファンでオープンしたもの。コーヒーを飲みながら本を読み、気に入ったら買って買える事もできます。
高齢化と過疎化が進む地域で、文化活動の拠点になることを目指しているそうです。
books & cafe そらまど
897−1201 鹿児島県南さつま市大浦町13647
営業日:金・土(ただし第4土曜日は休み)
営業時間:13:00〜18:00
カフェ以外に空き家を活用するアイデアについては、以下の記事で解説しています。
まとめ

空き家を活用したカフェ開業は、初期費用を抑えながら自分らしいお店を作れる魅力的な選択肢です。
たとえば「ひろしげ珈琲倶楽部」の事例では、築100年の古民家を活かし、地域とのつながりを大切にしながら16年以上も愛され続けています。初期投資が少なくてすむ「空き家カフェ」では、コンセプトを厳密に決めなくても、独自の魅力や強みがあれば成功する可能性があります。
一方で、カフェ業界は競争が激しく、コンビニやチェーン店を含めた競合との間で価格競争が起こることもあります。市場調査や資金計画、SNSを活用した集客戦略など、一般的なビジネス戦略も必要といえるでしょう。
沖縄での空き家活用はトーマ不動産まで
沖縄を訪れる観光客は多く、cafeハコニワ(本部町)やプラウマンズ・ランチベーカリー(北中城村)などの人気店がたくさん立地しています。
ただ「競合の多いカフェ営業を行うべきか、他の空き家活用を考えるべきか?」と迷うこともあるはずです。
そんな時は、トーマ不動産にご相談ください。ファイナンシャルプランナーであり、不動産のプロでもある當間社長が相談に乗ってくれます。
お問い合わせ|トーマ不動産
當間社長は筆者(アップライト合同会社の立石)が20年来信頼し協力いただいている人なので、安心して相談してください。