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孤独死物件の告知義務を宅建士が解説!法的基準と実務上の扱いの違いは?

この記事では不動産売買における孤独死物件や、自殺・他殺があった物件の告知義務について解説しています。まず、国土交通省のガイドラインを見てみましょう。

告知不要な場合具体例例外
賃貸借取引および売買取引で自然死または日常生活中の不慮の死が発生した場合老衰、病死、階段からの転落、入浴中の事故など特殊清掃や大規模リフォームが必要だった場合は告知が必要
賃貸借取引で上記以外の死が発生してから概ね3年経過した場合自殺、他殺など事件性、周知性、社会的影響が特に高い事案は告知が必要

つまり、孤独死だとしても、普通に亡くなった場合や、日常生活における不慮の事故であれば告知義務はないということです。

それを前提に、孤独死から何日も放置されて特殊清掃が入るなどの事由があれば、告知義務があると考えます。

しかし実務の世界では、国交省のガイドライン通りにいかないこともあります。人の心は「3年経ったから気にしない」と割り切れるものではないからです。

そこで、この記事では「人の死の告知」について詳しく掘り下げ、どんなリスクがあり、どうすれば回避できるのかを考えていきます。

この記事は、宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石が作成しました。

国土交通省ガイドラインが示した孤独死の告知義務

孤独死や自殺など「人の死」を告知するかどうか、かつては不動産会社(宅地建物取引業者)によって対応がバラバラでした。

そこで、2021年(令和3年)に国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を発表しました。

このガイドラインが対象としているのは居住用物件のみで、次のような判断基準が示されています。

状況告知義務の原則
自然死・日常生活中の不慮の死原則として告知不要。特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は必要
自殺・他殺など賃貸借取引では、事案発生から概ね3年が経過した後は原則として告知不要。ただし、事件性や周知性が高い場合は告知が必要。また、売買では明確な基準がない
隣接住戸や共用部分での死亡原則として告知不要。ただし事件性や周知性が高い場合は告知が必要。

すなわち、孤独死に限らず、自然死または日常生活における不慮の死は告知事項に該当しないというのが基本的な考え方です。

  • 自宅の階段からの転落死
  • 入浴中の溺死・転倒事故
  • 食事中の誤嚥

上記を基本としつつ、特殊清掃など特段の事由がある場合は例外的に「告知すべきだ」と考えるのが原則です。

賃貸不動産の場合は「3年」がひとつの判断基準に

賃貸物件について、国土交通省のガイドラインでは、自殺や殺人、特殊清掃が入った場合でも、その死が発覚してから概ね3年を経過すれば告知義務はないのが原則と判断しています。

また、事件があった部屋の隣近所の住戸では、そもそも告知義務がないという考え方が前提です。共有部分で自殺や他殺などが発生しても、告知義務はないと考えます。

ただし、告知義務がない事が前提ではあるものの「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」とも書かれており、グレーな部分が多い点には注意が必要です。

売買の場合は告知義務についての基準が明確でない

売買における人の死の告知義務については、さらにグレーゾーンが広く、難しい判断を迫られます。

基本的には「売買においても自然死であれば原則として告知不要」というのが国土交通省の考え方です。

しかし、殺人や自殺、特殊清掃が入ったケースでは告知が必要としつつ「何年経てば告知義務がなくなるのか」については言及していません。

「裁判例においても(売買の場合は)賃貸借に比して、心理的瑕疵と認められる期間が長くなる傾向にあるとともに、期間について一定した判断はなされていない」というのが、国土交通省の立場です。

では、そのように明確でない告知義務について、私たちはどう考えるべきでしょうか?

裁判例から考える「人の死の告知義務」

国土交通省のガイドラインは、これまでに蓄積された裁判例(判例)に基づいています。また、ガイドラインがなかった時代、不動産会社は裁判例に基づいて「人の死の告知義務」を考えていました。

裁判例では「互いに相手方の信頼を裏切らないように、誠意をもって行動しなければならない」という民法の基本原則を判断基準としています。この基本原則を「信義則」といいます。

「信義則」というつかみ所のないものを根拠に告知義務が判断される点が、この問題をわかりにくくしているともいえます。

一般の人が「住み心地のよさ」を感じられないなら告知すべき

殺人や自殺、孤独死などの事案は心理的瑕疵と呼ばれます。

裁判例では「通常一般人において、その不動産が『住み心地のよさ』を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度」の瑕疵であれば心理的瑕疵に該当すると判示しているようです。

つまり「自殺者が出た不動産ではあるが、古い話だから気にせずに住める」なら心理的瑕疵ではありませんし、「最近自殺者が出たため生々しく感じられる」なら心理的瑕疵に該当する可能性があります。

このように、人の心に左右される問題を「信義則」に従って判断するのは、簡単なことではありません。

数値で表せる明確な基準が存在しない以上、筆者としては「住みたくない」と思う人が少しでもいるようなら、念のため告知しておく方が安全だと考えています。

自殺や殺人があっても時間が経てば風化・希釈化する

しかし心理的瑕疵は、永久に残り続けるものではありません。

「殺人や自殺のような心理的瑕疵も、時間の経過とともに希釈され、やがて消滅する」というのが裁判所の考え方です。

賃貸の場合は、事案発生後に第三者である別の賃借人(入居者)が居住した事実によって希薄化されるとした裁判例もあります(東京地裁H19年8月10日判決)。

売買の場合は、賃貸より取引金額が大きく買主の損害が大きいことから、賃貸に比べると告知しなければならない期間(心理的瑕疵と認められる期間)が長くなる傾向があります。

しかし、それでも時間が経てばやがて風化し、告知義務はなくなると考えられます。

50年経っても告知義務があるとされた事例

売買においては、非常に長い年月が経っても心理的瑕疵に該当し、告知事例があるとされた裁判例があります。

農山村地帯の建物内で凄惨な殺人事件が発生、その建物は解体されて40数年にわたり放置されていました。その土地を購入後に殺人事件を知った買主が損害賠償を請求した事件で、裁判所は損害賠償を認めています(東京地裁八王子支部H12年8月31日)。

山奥の小さな村では、たとえ50年経過したとしても、殺人事件が近隣住民の記憶に残っていることがその理由でした。

この裁判例からわかるように、どれくらいの年月が経てば告知義務がなくなるのかという判断はケースバイケースで、非常に難しい問題です。

建物を解体した場合は告知義務がないとされる傾向

自殺などがあった建物について、その建物を解体し、更地にして売却することもあります。その場合の裁判所は心理的瑕疵に該当せず、告知義務はないと判断する傾向があります。

買主が上物付きの土地を購入し、建物を解体した後「実は2年前にその建物内で売主家族が自殺していた」ことが判明した事件があります。この事件では、裁判所が「嫌悪すべき心理的欠陥の対象は建物の解体によりもはや特定できない」と判示しました(大阪地裁H11年2月18日)。

また、古い判例ですが、7年前に自殺事故があった蔵を解体して更地にした後の売買で、裁判所は「事故のあった蔵はすでに取り除かれて存在しておらず、本件事故は瑕疵とは認められない」と判示しています(大阪高裁S37年6月21日)。

そこで、心理的瑕疵物件を建物として売却するのが難しい場合、更地にして売却するという方法も考えられます。

建物内で自殺を図ったが他の場所で死亡した場合

建物内で自殺を図ったが発見され、後に病院で死亡したという事件について、複数の裁判例があります。こういったケースでは心理的瑕疵が認められ「告知義務がある」とされているようです。

一方、自殺そのものが建物外で行われたケースとしては、競売住宅の元持ち主が200~300m先の山林で自殺をした事が判明し、不法行為責任が争われた事件があります。この時は「建物外で行われた自殺事故は不法行為を構成するものではない」とされ、告知義務は認められませんでした(仙台高裁H8年3月5日)。

他にも、賃貸住宅の入居者が室外で自殺したケースで、同様の裁判例があります(東京地裁H24年1月31日)。

火災による事故死と告知義務

失火(火事)による死亡事故では、事件からの経過年数によって判断が分かれています。売買契約の3年7か月前に火災で1名がなくなっていたケースでは一定の損害賠償(告知義務)が認められ、売買契約から17年前のアパート火災で1名が亡くなったケースでは、告知義務はないと判断されました。

告知義務に違反した場合のリスクは?

告知義務に反した場合には、売買契約が解除される場合があり、損害賠償を請求されるリスクもあります。

民法上心理的瑕疵は品質の不適合と解され、これに該当する場合、買主は損害賠償を求めることが可能だからです(契約不適合責任)。

ごく一例ですが、以下に裁判例を列挙します。

神戸地裁H28年7月29日売買の7年前に殺人事件があったが売主が告知しなかったケース。損害賠償額1575万円、弁護士費用160万円
浦和地裁川越支部H9年8月19日売買の5か月前に建物内で自殺事故があったが告知しなかった事件。損害賠償等で893万円の支払い
横浜地裁平成H9月7日売買マンションで6年前に自殺があったが告知しなかった事件売主が700万円支払うことで和解

また、損害賠償だけでなく契約が解除され、売買代金の返金を求められることもあります。

宅建業者は実務上どのように考えるか?

筆者は物件を調査する際、念のために事故物件投稿サイトの「大島てる」を確認します。

あまり信頼性の高いサイトではありませんが、万が一ここに掲載されていたら要注意です。

「大島てる」にアクセスして調査したいエリアを閲覧すると、炎のマークが付されている建物が多数あります。それをクリックすると、上の図のように、その物件で起きた事故の内容が投稿されています(一般の人による投稿)。

しかしよく見ると、この「大島てる」には「階段から落ちて亡くなった」「風呂場で溺死した」といった内容が多く投稿されています。本来、こういったケースで告知義務はありませんが、一般の人はそれでも「事故物件だ」と感じるわけです。

そこから、国土交通省のガイドラインと一般人の感覚にはズレがある、と考えざるを得ません。

実務上は昔の自殺等でも告知しないと危険

上述のように、筆者は「裁判所や国土交通省の考えと一般人の感覚にはズレがある」と考えています。たとえば、裁判例や国交省の考えでは、賃貸物件の室内で自殺があったとしても3年程度経過すれば告知しなくてもよい、とされます。

しかし、大島てるを見ればわかるように、一般の人は5年や10年経過しても「事故物件だ」と考えます。

そこで「3年経ったから告知しなくてもいい」と一律に判断すると、法的責任を追及される心配があります。裁判になっても勝訴する可能性はありますが、勝ったとしても手間や費用がかかってしまいます。

そのため筆者は、国交省のガイドラインにとらわれることなく、10年経った後にも自殺や孤独死を告知するようにしていました。

売買の場合はさらに慎重に判断したい

「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(国交省)」でも「告知すべき事案に該当するか否かが明確でなく、告知の要否、告知の内容についての判断が困難なケースがある」と述べています。

売買の場合は賃貸に比べて、より判断が難しく、告知しないことによるリスクがつきまといます。

国交省でも「殺人や自殺、事故死の場合は経過期間によらず、事案の発生時期や死因を告知してはどうか」という議論がありました。この点、筆者も賛成しています。

売買の場合は、万が一損害賠償請求をされた場合の負担額も大きくなるため、なるべく慎重に考えた方がいいでしょう。

たとえ裁判例で「心理的瑕疵は時間の経過とともに希釈され、やがて消滅する」とされていても、実務上はできる限り「殺人、自殺、事故死があった」と告知するのが安全だと考え、訴訟リスクを回避したほうがいいでしょう。

孤独死があり特殊清掃が入った場合の費用は?

孤独死の後、長期間発見されず室内が汚損した場合、特殊清掃やリフォームが必要となります。特殊清掃の費用も、決して安いものではありません。

項目内容
原状回復費用平均損害額:381,111円
平均支払保険金:334,411円
最大損害額:4,546,840円
残置物処理費用平均損害額:235,839円
平均支払保険金:235,487円
最大損害額:1,781,595円
家賃保証平均損害額:307,876円

特殊清掃では、孤独死による汚損や匂いの除去、設備の修繕を含めた原状回復を行います。

筆者も特殊清掃の現場を見たことがありますが、防護服を着た作業員が働く現場には、目を開けていられないほどの薬剤が噴霧され、大がかりな消毒作業が行われていました。

具体的にかかる費用は、日本少額短期保険協会の孤独死対策委員会が2022年11月に発表した「第7回孤独死現状レポート」に記載されています。特殊清掃(原状回復)にかかる費用は、平均で381,111円、最大損害額では4,546,840円という事例もあるそうです。

また、それとは別に残置物処理費用が235,839円(平均)、家賃保証の弁済に307,876円(平均)がかかっています。

大家さんの立場でも、入居者の立場でも、特殊清掃の費用をカバーする保険を利用することができます。

提供会社保険加入者補償内容
アイアル少額短期保険株式会社賃貸住宅の家主・管理会社原状回復費用保険金:遺品整理、清掃・消臭、修復費用などを1事故最大100万円まで補償。
株式会社あそしあ少額短期保険賃貸住宅の家主修理費用担保特約(任意加入):居住者の死亡により発生した修理費用や臨時費用を補償。
東京海上ミレア少額短期保険株式会社賃貸住宅の入居者賠償責任補償:日常生活での事故により他人に損害を与えた場合の賠償責任を補償。
修理費用補償:借用戸室の修理費用を補償。

お年寄りの単身世帯では、念のためこういった保険に入っておくほうが安心できるでしょう。

まとめ「国交省のガイドラインと実務上のポイント」

孤独死物件や自殺・他殺が発生した物件の「告知義務」については、国土交通省のガイドラインを基本としながらも、慎重な対応が必要です。

国交省は、自然死や日常生活中の不慮の死については告知義務がないことを前提としつつ、特殊清掃や大規模リフォームが不要な場合には告知義務があるとしています。また、自殺や他殺などの場合には告知が必要ですが、賃貸と売買では考え方が異なります。

賃貸の場合、国土交通省は、自殺等の事件から概ね3年が経過すると原則として告知義務はないという立場をとります。しかし、売買の場合は年数などの数値が示されておらず、判断に迷う人も多いはずです。

このようにガイドラインの内容にはグレーゾーンが多く、個別具体的な物件にあわせて判断することが求められます。

農村部の殺人事件では、50年経っても告知義務があるとされた裁判例もあります(東京地裁八王子支部H12年8月31日)。一方で、建物を解体して更地にした場合は、2年前の自殺であっても告知義務はないとする裁判例もあります(大阪地裁H11年2月18日)。

そこで、どうしても判断が難しい物件は「訳あり物件買取PRO」など専門業者に相談するのも一つの方法です。

筆者は「訳あり物件買取PRO」を運営しているAlbaLink株式会社さんを取材したことがありますが、専門的な見地から「どう対処すればいいか」という相談にも乗ってくれるそうです。

不安な場合は、一度相談してみてもよいでしょう。

なお、不動産売却に関して「人の死」以外の告知義務については、以下の記事にまとめています。あわせて参照してみてください。

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