不動産売却

沖縄県の地価上昇が続く中、不動産売買の現場で感じる変化と今後の展望

2025年10月11日

令和7年度の地価調査では、沖縄県の住宅地が平均5.7%の上昇率を記録し、10年連続で上昇率全国1位を維持しています。

さらに、全用途平均では前年の5.9%を上回る6.1%の上昇となり、沖縄の不動産価格がいまも右肩上がりで上昇を続けていることがわかりました。

不動産売買業に従事する私たちは、日々お客様と接する中で、この統計数字が示す以上に、市場の大きな変化を肌で感じています。本記事では、現場で実際に起きている変化と、今後の展望について、実務者の視点からお伝えします。

この記事はトーマ不動産株式会社の當間が制作しました。

急速に高騰する価格と変化の多い顧客層

最近の実務で最も顕著なのは、県外からの移住者や富裕層の購入意欲の高さです。特に宮古島市や今帰仁村では11.2%という驚異的な上昇率を記録していますが、これには理由があります。

リゾート地域における驚異的な価格上昇

北部エリアでは、今帰仁村に大型テーマパーク「ジャングリア」がオープンしました。さらに、古宇利島では「BATON SUITE 沖縄古宇利島」のような全室スイート仕様のハイクラスリゾートが開業しました(2025年4月)。こうした大手リゾートホテルの建設ラッシュが、地域の不動産市場を大きく動かしているのです。

こういった施設群の開発によって、新たに雇用される従業員を収容するための賃貸住宅需要が急増しています。その結果、投資家による収益物件の取得も活発化し、土地の価格が急速に上昇する連鎖反応が起きました。

恩納村のようなリゾートエリアでは、県外富裕層による別荘需要が底堅く、地元の方々が住宅を取得することが難しくなっているという声も聞かれるようになりました。

那覇市中心部の需要集中と周辺地域への広がり

那覇市の状況も大きく変化しています。那覇市の住宅地平均変動率は前年の4.3%から4.9%へと上昇幅が拡大しました。県全体の住宅地上昇率がわずかに縮小する中で、那覇市の上昇率が拡大しているという点は注目に値します。

これは、那覇市の新都心地区や中心部など、交通・生活利便性に優れた地域で、県外からの移住者を中心とした需要が特に強いことを示しています。実際、那覇市内の分譲マンション価格は、6年前と比較して25.7%も上昇しており、3年前と比べても13.4%上昇しています。

実際の取引現場では、予算4,000万円台で探していた県内のご家族が、希望エリアでは予算内の物件が見つからず、浦添市や宜野湾市などの周辺市町村へ検討範囲を広げるケースが増えています。中心部の価格上昇により、地元の実需層が周辺地域へと流れる「需要のドーナツ化現象」が進行しているのです。

先日対応したケースでは、夫婦共働きの方が那覇市新都心エリアで約7,000万円の分譲マンションを購入するため売買契約を行った後、将来に対する漠然とした不安が出てきて、将来の資産価値について相談を受けることもありました。

このような購入後の不安に寄り添うことも、私たち不動産実務者の重要な役割となっています。

このセクションのデータは、民間データ(マンションナビ等の集計)に基づく推計値です。

建築費高騰がもたらす影響

建築費の高騰は、土地購入を検討されるお客様にとって大きな負担となっています。以前なら土地代と建物代の合計で予算内に収まった計画が、現在では建築費だけで予算を圧迫するケースが少なくありません。

景気拡大の中で住宅投資が伸び悩む矛盾

この状況は、統計データにも表れています。日本銀行那覇支店が2025年4月に発表した県内金融経済概況によると、沖縄県の景気は観光業の好調(3月のホテル稼働率75.4%)と個人消費の堅調さに支えられ「拡大基調」にあります。

しかし、景気が拡大しているにもかかわらず、「住宅投資はやや弱含み」と指摘されています。これは一見すると矛盾した状況です。好景気なのに住宅への投資が伸び悩んでいる理由は、建設資材価格の高騰や人件費の上昇といったコストの上昇が、住宅建設活動を抑制しているからです。実際、沖縄県の消費者物価指数は2月時点で前年比4.0%と高い水準で推移しており、建設コストへの圧力が続いています。

中古住宅・リノベーション市場への注目の高まり

こうした新築建築費の高騰を受けて、中古住宅やリノベーション物件への関心が高まっています。特に築年数の浅い物件は人気が集中しやすい状況です。

実務では、那覇市近郊では、中古住宅の築年数が40年以内であればリフォームやリノベーションの提案がしやすくなっています。この「築40年以内」という目安には、実は重要な意味があります。

1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物は、新耐震基準を満たしている可能性が高くなります。新耐震基準を満たしていれば、住宅ローン控除の適用や特定の住宅保険への加入がスムーズになるなど、金融面でのメリットが大きいのです。

一方で、建物状態の悪い物件や旧耐震基準(1981年5月31日以前)の物件は、想定以上のリフォーム代がかかる可能性があります。耐震補強工事が必要になると、コストが跳ね上がるだけでなく、金融機関の担保評価にも影響を及ぼすことがあります。そのため、専門家(建築士やファイナンシャルプランナー)に相談しておかないと、思わぬ出費となる可能性があります。

トーマ不動産ではセカンドオピニオンを含めたご相談に対応しています。

初回ご相談は無料ですので、お気軽にご利用ください。

住宅ローン金利上昇への強まる警戒感

長らく続いた異次元の金融緩和について、金融政策を転換し、日銀の政策も逆方向へ舵を切ろうとしています。

金融政策の転換と金利上昇リスク

県内の金融関係の方と情報交換をしても、「今後金利は上がることはあっても下がることはない」という会話を耳にするようになりました。筆者を含むファイナンシャルプランナー等の専門家も、顧客の状況に応じ、金利上昇局面を想定してフラット35のような35年固定金利をおすすめする場面が増えてきています。

この背景には、日本銀行による金融政策の正常化に向けた動きがあります。日本銀行は2024年以降、マイナス金利政策を解除し、長期金利を上昇させる方向へと政策を転換しました。

このため、市場では今後金利が上昇局面に入るという見方が強まっています。

フラット35による金利固定という選択肢

こうした金利上昇リスクに対応するため、全期間固定金利の住宅ローンが注目されています。住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する「フラット35」は、最長35年間にわたって金利が固定されるため、金利変動リスクを排除できます。

2025年9月および10月時点で、フラット35(新機構団信付、融資率9割以下)の主要な金利は1.890%前後で推移しています。専門家が今このような固定金利商品をすすめる理由は、現在の水準が、将来の金利大幅上昇リスクに対する「保険料」として合理的だと判断しているためです。

金利1%上昇がもたらす家計への影響

今後予測される住宅ローン金利の上昇は、実需層の購買力に直接影響します。現在の低金利環境に慣れた住宅購入者にとって、金利が1%上昇するだけでも、月々の返済額は大きく変わったと実感されるはずです。

具体的に試算してみましょう。5,000万円の住宅ローンを35年返済で借りる場合を想定します。

  • 金利1.89%の場合:月々の返済額は約16.8万円
  • 金利2.89%の場合:月々の返済額は約18.9万円
  • 差額:月々約2.65万円の増加、総返済額では約1,115万円の増加

金利がわずか1%上昇するだけで、月々の返済額が約2.3万円も増加し、35年間の総返済額では約460万円もの負担増となります。そもそもの不動産価格が高騰しているため、実需層にとって月額負担の増加は家計を大きく圧迫する要因となります。

筆者は不動産業従事者として、お客様には長期的な返済計画と金利変動リスクについて、こうした具体的な数字を用いて、より丁寧な説明を行うよう心掛けています。

今後の展望:二つのリスクを見据えた実務対応

地価上昇基調は今後も続くと予想されますが、同時に注視したいリスクも存在します。価格の高止まりと金利上昇という2つの要因が、需要の下振れリスクになり得る、という点は常に意識しておきたいポイントです。

持続する地価上昇と潜在する下振れリスク

沖縄の不動産市場は、強力な観光資本と都市圏集中需要によって支えられています。しかし、その強みは同時に弱点でもあります。地価上昇の原動力が観光・リゾート関連投資に大きく偏っているため、国際的な経済情勢や地政学リスク、パンデミックのような外部ショックからの影響を受けやすい構造となっています。

また、消費者物価指数が高水準で推移していることは、コスト増加型のインフレ圧力が続いていることを示しています。このコストプッシュ型インフレは、土地価格と建築費の合計額を高止まりさせる一方で、地元実需層の可処分所得を圧迫し続けます。

市場の二極化とお客様に寄り添う提案

こうした構造的な状況により、沖縄の不動産市場は今後、「価格を問わない富裕層・投資家向け」の市場と、「コスト競争力のある周辺地域・中古住宅市場」へと、さらに明確に二分化される可能性が高いと筆者は考えています。

私たち不動産実務者には、お客様の予算と希望条件のバランスを見極め、適切なタイミングでの購入判断をサポートすることが求められるようになりました。

つまり、単なる物件紹介や価格交渉の仲介にとどまらず、高度なリスク管理を含むコンサルティング業務へと変化しているということです。

まず重要なのは、短期的な資産価値の期待だけでなく、将来的なリスクも含めた両面からの丁寧な説明でしょう。高騰した建築コストや将来的な金利上昇によるキャッシュフロー悪化の可能性について、具体的な数字を用いて試算しながらお伝えする必要があります。

また、住宅ローンの選択においても、固定金利オプションのメリットとデメリットを徹底的に開示することが必要です。フラット35などの長期固定金利を活用することで金利変動リスクを回避できる一方、当初の金利水準は変動金利よりも高めに設定されています。お客様一人ひとりの状況に応じて、どちらが最適な選択肢となるのかを一緒に考えていくことが大切です。

さらに、中古物件を検討される際には、より専門的なアドバイスが必要になります。旧耐震基準の物件が抱える構造補強リスクや、金融機関の融資審査、住宅保険加入における制約について、事前にしっかりとお伝えする事は不可欠です。

こうした場面では、ファイナンシャルプランナーや建築士といった専門家と連携し、多角的な視点からお客様の判断をサポートしていくことが重要だと考えています。

まとめ:変化する市場で最適な選択を

沖縄の不動産市場は、観光・リゾート需要と地元実需の両面で支えられています。その分、外部要因による変動リスクにさらされていることを認識する必要があります。

地価上昇が続く一方で、建築費の高騰と金利上昇という二大リスクが、特に地元実需層の購買力に影響を与え始めています。市場は富裕層・投資家主導の価格高騰エリアと、実需層が価格を求めて移動する周辺エリアへと分かれつつあるといえるでしょう。

トーマ不動産では、このように複雑化する市場環境の中で、最新の地価動向だけでなく、金融・建築コスト・耐震基準適合といった複合的な要素を分析し、お客様一人ひとりに最適化された長期資産形成プランを提案しています。

私たちは、今後も市場動向を注視しながら、お客様にとって最適な不動産取引をご提案していきたいと考えています。将来に対する不安を解消し、安心して住まいを選んでいただけるよう、専門家としてのサポートを続けてまいります。

参考文献

  1. 沖縄県(2025-09-17)『令和7年 沖縄県地価調査結果の概要』。 https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/366/2025gaiyo.pdf (最終確認:2025-10-11)
  2. 沖縄県(2025-07-01基準)『地価調査・地価公示|市町村別・用途別平均価格及び平均変動率(R7.7.1ダウンロード案内ページ)』。 https://www.pref.okinawa.jp/machizukuri/jutakutochi/1012354/1021640/1012365/1012366.html (最終確認:2025-10-11)
  3. 国土交通省(2025-09-17)『令和7年 都道府県地価調査を公表しました』。 https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_010466.html (最終確認:2025-10-11)
  4. 沖縄タイムス(2025-09-16)『沖縄の住宅地価、10年連続全国トップの上昇率』。 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1671133 (最終確認:2025-10-11)
  5. 日本銀行 那覇支店(2025-04-14)『県内金融経済概況(2025年4月)』。 https://www3.boj.or.jp/naha/pdf/0011getsurei2504.pdf (最終確認:2025-10-11)
  6. 日本銀行(2024-03-19)『金融政策の枠組みの見直しについて(マイナス金利解除・YCC終了)』。 https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2024/k240319a.pdf (最終確認:2025-10-11)
  7. 住宅金融支援機構(2025-10-01 他)『最新の金利情報:長期固定住宅ローン【フラット35】』。 https://www.simulation.jhf.go.jp/flat35/kinri/index.php/rates/top (最終確認:2025-10-11)
  8. 建築研究所(発表年記載あり)『「新耐震基準」から40年を振り返る(S56改正の概要等)』。 https://www.kenken.go.jp/japanese/research/lecture/r03/pdf/S07_Koyama.pdf (最終確認:2025-10-11)
  9. JUNGLIA公式(2025-07-25開業)『JUNGLIA|ジャングリア沖縄』。 https://junglia.jp/ (最終確認:2025-10-11)
  10. ダイワロイネットホテルズ(2025-03-27開業)『BATON SUITE 沖縄古宇利島【公式】』。 https://www.daiwaroynet.jp/batonsuite/okinawa-kourijima/ (最終確認:2025-10-11)

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