不動産売却 基礎知識

「法令に基づく制限」の内容と調べ方

不動産の重要事項説明書には、「法令に基づく制限」という項目があります。ここでは主に、都市計画法と建築基準法という2つの重要な法律による制限について調査し、記載します。

都市計画法都市計画法は、都市の健全な発展と秩序ある整理を図るために、都市計画に関する事項を定めた法律です
建築基準法建築基準法は、建築物の安全を確保するために、建築物の敷地、構造、用途、設備などに関する基準を定めた法律です

上記ふたつの重要な法令に基づく様々な制限が、重要事項説明書の「法令に基づく制限」欄に記載されます。

この記事では、法令に基づく具体的な制限内容とその調査方法を解説します。新人宅建士さんだけでなく、これから不動産を売買するユーザーの方にも参考になるように記述しました。

この記事は、宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石が制作しました。

都市計画法に基づく制限

都市計画法を簡単にいうと「どんな街を作るか」という計画を立てるための法律です。

そのため、まちづくりを行いたいエリアを「都市計画区域」に定め、都市計画区域の中で、発展させたいエリアや、農地・自然を残しておきたいエリアなどを決定していきます。

こうした観点から不動産の重要事項説明書を見てみると、規制の内容が理解しやすくなるでしょう。

区域区分

都市計画法では、街づくりを行うためのエリアを「都市計画区域」と定めます。そして、この都市計画区域をさらに3つの区域区分に分けています。

都市計画法における区域区分とは、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に区分することを指します。また、まだ区域区分がされていないエリアを非線引き区域と呼びます。

区分概要建築・開発制限
市街化区域既に市街地が形成されている、もしくは10年以内に市街化を進めるべき区域。積極的に開発が行われる一般に、建物の建築が許可され、開発が進められる。用途地域が定められている
市街化調整区域市街化を抑制すべき区域。自然環境の保全や農地の維持が目的で、建築制限が厳しい原則として建築は許可されないが、一定の要件を満たせば例外も認められる
非線引き区域区域区分が定められていない区域。開発や建築に対する制限が比較的緩やか比較的自由に建築や開発が行えるが、一定の都市計画に基づいた規制が存在することもある

市街化調整区域に指定された場合、原則として建物の建築はできず、農業用の建築物などに限って建築が認められます。

しかし、一部例外が認められる場合があり、自己用の住宅などが建築可能となるケースもあります。

市街化調整区域の制限と例外について、詳しくは以下の記事で解説しています。

関連記事

メモ

都市計画区域と都市計画区域以外に、準都市計画区域という区域も存在します。やや例外的なので本文には掲載しませんでしたが、準都市計画区域とは、都市計画区域ではないものの一定の都市化が進む可能性があるエリア。たとえば高速道路のイアウトレットモールがアウトレットモールが展開している場所などがその一例です。ただし、通常はあまり気にしなくても問題ないでしょう。

開発許可等

都市計画法では、計画的にまちづくりを進めるために、都道府県知事の許可を受けなければ開発行為ができないという「開発許可制度」を設けています。

開発行為とは主に建築物を建てるために土地の区画形質の変更を行うことを指しています。教科書的には「土地の区画形質の変更」と書かれていますが、簡単に言えば土地の造成工事のことです。

区域区分や用途地域、開発行為の規模などによって、都道府県知事の許可が必要かどうかが決まります。

都市計画区域開発行為の許可基準特記事項
市街化区域1,000㎡(500㎡)以上開発許可権者が条例で300㎡まで引き下げ可能
市街化調整区域原則として全ての開発行為に許可が必要
非線引き区域3,000㎡以上開発許可権者が条例で300㎡まで引き下げ可能
準都市計画区域3,000㎡以上開発許可権者が条例で300㎡まで引き下げ可能
都市計画区域外1ha以上

三大都市圏等の一部エリアでは500㎡以上、それ以外の市街化区域では1,000㎡以上の開発行為について開発許可が必要です。

都市計画施設

都市計画施設とは、都市計画法第11条に定められているものです。道路、公園、下水道等について、その名称や規模などが都市計画に定められた場合、その施設を都市計画施設と呼びます。

重要事項説明書で問題になるのは、都市計画道路です。

都市計画道路は計画決定されても事業決定される前の段階であれば、通常どおり売買が可能です。そして、不動産の重要事項説明書には、都市計画道路予定地である場合、その旨を記載する必要があります。

都市計画道路予定地であっても住宅の建築は可能で、相続税評価額が安いことを利用した相続税対策として購入するケースもあります。

用途地域

用途地域とは、住居、商業、工業など、市街化区域内の土地の利用方法を定めたもので、全部で13種類あります。用途地域が指定されると、それぞれの用途に応じて建築できる建物の種類などが決められます。

用途地域特徴
第一種低層住居専用地域一戸建てなど低層の住宅を中心とした地域
第二種低層住居専用地域上記に準ずるエリア
第一種中高層住居専用地域マンションと一戸建てが混在する住宅専用地域
第二種中高層住居専用地域上記に準ずるエリア
第一種住居地域住環境を守るエリアながらホテルや大きめの店舗も立地
第二種住居地域上記に準ずるエリア
準住居地域幹線道路沿いのエリアで店舗と住宅の両方が立地
田園住居地域農地と調和した低層住宅が立地するエリア
近隣商業地域店舗や工場も立地可能な利便性の高いエリア
商業地域百貨店、映画館などと住宅が混在。都市部で最も利便性が高い
準工業地域軽工業や大きなサービス施設も立地。住宅も立地可能
工業地域どんな工場も立地可能で住宅もOK。タワマンも立地
工業専用地域工場専用で住宅、学校、店舗等は立地できない

それぞれの用途地域によって、建ぺい率や容積率が定められていたり、建築できる建物の種類や規模が決まっています。

詳しくは、東京都の資料をダウンロードしてみてください。

地域・地区・街区

地域・地区とは、都市計画区域内の土地を、どのような用途で利用するべきか、あるいはどの程度利用するべきかといった観点から21種類に分類し、定めたものです。

既に述べた用途地域もその分類の一つですが、他にも高さに関する地区の定めや、防火・防災に関する地区の定め、環境や美観を守るための地区の定めなどがあります。

不動産の重要事項説明書では、どういった地域・地区に分類されているかを示すのみで、その詳細内容までは記載されていません。

また、街区とは地区よりも小さな市街地の構成単位で、景観計画などの基本単位ともいわれます。街区について重要事項説明書に記入される事項がある場合、だいたい「その他」の項目に記載されます。

建築基準法に基づく制限

不動産の重要事項説明書において、「法令に基づく制限」の中で最も重要なのは、すでに説明した都市計画法による制限と、ここで解説する建築基準法による制限です。建築基準法では、土地に建物を建てられるかどうかといった重要な点が定められています。

また、建築できる建物の規模にも影響を与える重要な部分です。

敷地と道路との関係

不動産の重要事項説明書の「敷地と道路の関係」の項目では、その土地がどのような道路に接しているかを記載します。

建築基準法では、土地が建築基準法に認められた幅員4メートル以上の道路に、間口2メートル以上接していないと建築できないと定められています。

そこで、その土地がどのような道路に接続しているのかを確認し、記載するわけです。

建築基準法上の道路かどうかの判定方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、そちらも併せて読んでみてください。

関連記事

また、上記記事で詳しく解説していますが、建築基準法上の道路に接していない場合の救済措置も定められています。

基準法の道路に接していないからといって、すぐに建築不可能と判断するのは早計です。

建築物の高さの制限

建築基準法による高さ制限には、道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限、絶対高さ制限、日影規制があります。

建物を建てる場合、このうち最も厳しい制限に従って建築する必要があります。

一般に、不動産の重要事項説明書では、絶対高さ制限に関しては数値で記入されていますが、その他の高さ制限に関しては、どのような制限がかかるかだけを調査して記載します。

しかし、実際には各制限の内容をきちんと調査しておく必要があります。

また、不動産会社によっては、余白に道路斜線制限や北側斜線制限などの内容を具体的に記入することもあります。できれば具体的に記入することが望ましいといえるでしょう。

外壁後退の制限

民法上、建物は敷地境界から50センチ以上離して建てなければならないという外壁後退義務があります。

それに対して、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域では、建物の外壁と敷地境界線の距離を1メートルまたは1.5メートルにすることが定められています。

重要事項説明書では、その外壁後退の制限内容と合わせて、敷地面積が最低何平米以上必要かという制限の有無も記載します。

建築協定

建築協定とは、住宅地や商店街としての環境を守ることを目的に、土地所有者同士が建築物の基準に関する協定を結び、特定行政庁がこれを認可することで、第三者もその協定を遵守しなければならないという効力を持たせる制度です。

東京都大田区田園調布の「田園調布憲章」と呼ばれる建築協定などが有名です。

不動産の重要事項説明書では、この建築協定があるかどうかを調査し、もしあれば「有り」と記載します。

法令に基づく制限の調査方法

法令に基づく制限の調査は、原則として市町村役場で行います。しかし、都道府県によって対応が異なる場合があるため、注意が必要です。

用途地域や建ぺい率、容積率など、都市計画法上の制限は、市町村役場の都市計画を担当する部署で調査することが多いでしょう。担当部署の名称は都市計画課や土木課などさまざまですが、市役所の受付で「用途地域について調べたい」と尋ねれば案内してもらえるはずです。

建築基準法上の高さ制限や建ぺい率、容積率、道路の種類に関する項目についても、同じく都市計画課で調査することが多いですが、建築主事がいない市町村では都道府県で調査を行う場合もあります。

しかし大阪府では、建築主事がいない市町村でも道路に関する調査に対応しており、都道府県によって対応がまちまちです。

参考までに、筆者が使用していた物件調査のフォーマットをPDFでダウンロードできるようにしました。

物件調査シート(PDF)

上記ファイルを見れば分かるとおり、同一県内においても、調査項目によっては市役所で調査できるか、県庁まで行かなければ調査できないかという違いが出てきます。

まとめ

不動産の重要事項説明書に記載される「法令に基づく制限」には、都市計画法や建築基準法による様々な制限が記載されます。

特に大切なのは、以下の2つの法律でした。

都市計画法「どんな街を作るか」という計画に従い、街づくりを行うための区域やその区域での用途制限を定める
建築基準法その土地にどんな建物が建てられるかを規定する

不動産の重要事項説明書を作成する場合、これらの法令による制限の内容を理解し、適切に調査することが必要になります。

土地売買を行うユーザー(売主・買主)の立場でも、これら法令上の制限の内容を理解し、重要事項説明書をきちんと理解して読み進めてください。

特に買主は、重要事項説明書に実印を押すことになりますから、後で「知らなかった」といっても手遅れになります。

沖縄県内の不動産の重要事項説明に関して、もしご相談があれば、下記からお問い合わせください。

トーマ不動産では、確実な不動産物件調査を行った上で、重要事項説明書と不動産売買契約書を作成しています。

-不動産売却, 基礎知識