不動産の売買契約書は、重要事項説明書と並んで、不動産売買における最重要書類の1つです。
不動産売買契約書には、誰が誰に対してどの不動産を売却するのかが具体的に記載され、売主と買主の双方が合意した事項を書面に残すことで、取引内容を証明する効果を持っています。
この記事では、不動産売買契約書について解説しています。また売買契約書と同時に交付されることが多い重要事項説明書についても概要を解説しました。
一般の方が見逃しがちなポイントについても触れていますので、初めて不動産を売買する方はぜひご覧ください。
なお、売買契約書や重要事項説明書以外の必要書類に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
この記事は宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石が制作しました。
はじめての不動産売買で知っておきたい契約書の知識
不動産の売買にあたって、不動産会社に仲介を依頼した場合、契約に関する非常に重要な書類が2つあります。契約時には、通常この2つの書類に記名押印を行うことになります。
売買契約時の重要書類
- 不動産売買契約書
- 重要事項説明書
売買契約書と重要事項説明書は、どちらか一方が重要で、もう一方が補足的なものというわけではありません。どちらも非常に重要な書類です。
これら2つの書類は、2つで1セットと考えてもいいでしょう。
この記事では、まず不動産の売買契約書について解説し、次に重要事項説明書についても補足的に解説します。
不動産売買契約書とは?
不動産売買契約書は、誰が誰に対して、どの不動産を売却するのかを明記し、売主と買主がどのような合意に至ったかを証明するために作成される書類です。
不動産を含む物の売買は、法的には口頭でも契約が成立します。
しかし、口約束だけでは後々のトラブルを防ぐことができませんし、第三者に契約の内容を証明することもできません。
そこで、不動産売買契約書を作成し、不動産売買に関する合意内容を記録することが必要となります。
重要事項説明書とは?
不動産会社に売買の仲介を依頼した場合、売買契約書と同時に重要事項説明書が交付され、買主(場合によっては売主も)は、その書類に記名押印する必要があります。
重要事項説明書とは、主に買主に対して、その不動産を購入する前に知っておくべき重要な項目を記載した書類です。この書類には、不動産に関して理解しておきたい情報や注意点が記載されており、その記載内容は法令によって定められています。
例えば、仲介に入る不動産会社の情報や、不動産の登記簿に記載された事項、都市計画法や建築基準法に基づく制限の内容、水道や電気・ガスなどインフラの状況が含まれます。
不動産購入後のトラブルを避けるためにも、ぜひ確認しておきたい内容が記載されています。
不動産売買契約書の記載内容と注意点
不動産の売買契約書にはさまざまな形式があり、必ずしも特定のフォーマットを使用する必要はありません。
しかし、一般的には国土交通省の「標準契約約款」をベースにした売買契約書が使用されています。
この記事では、以下のリンク先でダウンロードできる「不動産ジャパン」の標準契約書の雛形を参考に、売買契約書の記載内容について解説していきます。
不動産売買の標準契約書(例)|財団法人不動産適正取引推進機構
上記の契約書を参照しなくても本記事の内容は理解できますが、時間があれば一度目を通しておくことをおすすめします。
売買契約書の基本的な内容
不動産の売買契約書では一般的に、冒頭でどの不動産を売買するのかを具体的に記載します。
土地については、所在地や地番、地目、地積(広さ)を記載し、売買の対象となる土地を特定します。
建物の場合は、所在地、家屋番号、構造、床面積などを記載して対象物件を特定します。
その後、売買代金の金額、手付金の支払い時期と金額、所有権の移転や登記手続きのタイミング、売買代金の残代金の支払いに関する規定など、取引の進め方について詳細に規定します。
また、売買の目的や印紙代を誰が負担するか、租税公課の分担方法、契約不適合責任に関する条文など、契約に関わる定型的な内容が続きます。
そして最後の方には、特約条項として、その契約に特有の条件や、売主と買主が合意した事項を盛り込む項目が設けられています。
そしてここが、契約書の中でも特に気をつけたいポイントです。
売買契約書の「特約条項」の読み方
不動産売買契約書における特約条項には、一般的な条文ではカバーできない、その契約固有の事情や、紛争に発展する可能性がある項目の予防策が盛り込まれています。
不動産仲介業者から契約書を受け取った際には、まず特約条項をしっかりと確認することをお勧めします。
特約条項の書き方によって、その不動産会社の実力や信頼性が分かることもあります。
特約条項には定型的な条文ではない、その契約固有の内容が記載されているため、それが自分にとって有利なのか不利なのかは常に判断する必要があります。
売買契約書の特約条項について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
重要事項説明書の基本的な内容
重要事項説明書は、宅地建物取引業法第35条に規定された書類で、宅地建物取引士(宅建士)が必ず記名押印し、その内容を説明しなければならない重要な書類です。
この書類には、取引に関わる仲介不動産会社の情報、不動産の登記簿上の権利の種類や名義人、法令上の制限、私道に関する負担、水道・電気・ガスなどのインフラといった、極めて重要な内容が記載されています。
重要事項説明書の「備考」は重要ポイント
重要事項説明書の備考欄は、一見すると補足的な内容に思えるかもしれませんが、実際には非常に重要な部分です。
この欄には、売買契約書の特約条項に相当する内容が記載されることもあり、最近では容認事項が記載されるケースも増えています。
容認事項とは、その不動産に何か問題や注意点がある場合に、買主がその点を理解し、了承するという内容です。特に買主の立場では、この部分を読み飛ばしてしまうと後に大きな問題に発展する可能性があります。
重要事項説明書の備考欄は、必ず厳重に確認するようにしてください。
「敷地と道路との関係」は必ず押さえるべき
筆者は、重要事項説明書の中でも「敷地と道路の関係」という項目には特に注意が必要だと考えています。
建築基準法上、道路と認められる道路に2メートル以上接していないと、建物を建築したり再建築したりすることができません。
その点、この項目では土地がどのような道路に接しているのかが記載されています。以下の記事では「敷地と道路との関係」を詳しく解説していますので、あわせて参照してみてください。
中でも最も気をつかうのが、接道が里道であるものの、建築が可能な場合です。建築基準法43条2項関係の許可等を得て建築できるという場合は、将来にわたってその許可が下りるという保証があるわけではありません。以下の記事などを参考に、どのような制度なのかを確認しておいてください。
「法令に基づく制限の概要」も重要
重要事項説明書の「法令に基づく制限の概要」欄には、主に都市計画法や建築基準法に基づく制限が記載されています。
この項目は、将来的に建物を建て替える際に、どのような建物が建てられるかに影響を与えるため、非常に重要です。この項目についても、不明点があれば仲介業者に質問し、疑問点を残さないようにしましょう。
また、少し後ろに出てくる「その他法令上の制限」という項目もじっくり見ておいてください。
ここには、建築基準法や都市計画法以外の法令による制限が記載されています。この部分に関しても、内容を理解しておくことが必要です。
例えば、昭和の時代に開発された住宅地では「宅地造成等規制法」にチェックが入っていることがよくありますが、その内容は記載されていません。この場合、どのような制限があるのかを仲介業者に尋ねておいてください。
また、田舎の物件では農地法や森林法の影響がないかを確認し、場合によっては自然公園法の制限も確認しておく必要があります。こういった項目にチェックが入っている場合「それはどのような制限ですか?」と、必ず尋ねてください。
こういった質問に答えられない宅建士もいますが、そういった人はちょっと勉強不足かもしれません。
宅地造成等規制法は最近も改正されており、近年開発された住宅地であっても宅地造成陶器製区域に該当することがあります。
不動産売買契約でよくあるトラブルと対策のヒント
このグラフは、公益財団法人不動産流通推進センターが調査した不動産取引における紛争事例の統計をもとに作成しました。
ここから、不動産取引においてトラブルになることが多いのは、重要事項説明の内容、契約解除に関する紛争、不動産の瑕疵に関する問題、契約内容に関連する書類の不備、仲介手数料に関する問題だとわかります。
重要事項説明についてのトラブルが最も多い
重要事項説明書を作成するには、相当な経験と知識が必要です。
しかし、実際には多くの不動産会社で、経験年数1~2年の社員が物件調査を行い、重要事項説明書を作成しています。
場合によっては、宅建士の手が回らずに事務員が作成し、宅建士はハンコを押すだけというケースもあります。
そのせいか筆者は、同業者が作成した重要事項説明書で調査漏れやミスを何度も目にしたことがあります。
規模の大きな不動産会社では複数人がチェックすることもありますが、宅建士が1人で作成し、チェックせずにそのまま送付するケースでは特に注意が必要です。
重要事項説明書や契約書を受け取った際には、必ず詳細に確認するようにしてください。
契約解除時にトラブルが多発している
時には、不動産の売買契約を解除する必要に迫られることがあります。
そういった事態に備えて、不動産売買契約書には、契約解除が可能となる条件が規定されています。
例えば、金融機関からの融資が通らなかった場合、買主は売買契約を解除できるというローン条項(住宅ローン条項)が記載されていることがあります。これは、買主の安全を守るためのもので、通常は必ずローン条項を付します。
もしこのローン条項が記載されていない場合、銀行融資が通らなくても買主は不動産を購入しなければならず、非常に厳しい立場に立たされることになります。
こうなると、トラブルは避けられないでしょう。
また、不動産売買では「手付解除」を規定することが一般的です。一定の条件が揃うまでの間、買主は支払った手付金を放棄することで契約を解除し、売主は手付金の倍額を返すことで契約を解除できる仕組みです。
しかし、手付解除の細かい点について紛争になるケースがあり、注意が必要です。
例えば、手付け解除は「相手方が債務の履行に着手するまで」という条件があるのですが、何をもって「履行に着手した」とみなすかが裁判で争われることもあります。
このように、契約解除時にはトラブルが発生しやすいため、疑問がある場合はあらかじめ仲介不動産会社に質問し、整理しておくことが重要です。また、不動産売買契約の解除については、以下の記事で詳しく解説しています。
不動産の「瑕疵」に関するトラブルと対策
2020年4月に施行された改正民法により、これまでの瑕疵担保責任が「契約不適合責任」に改められました。
契約不適合責任とは、売買の対象となる物件が契約内容に適合していない場合に、買主が売主に対して責任を追及できる制度です。
不動産の瑕疵に関するトラブルを防ぐためにも、契約不適合責任の内容をしっかり確認し、不明点があれば仲介不動産会社に相談することが大切です。
信頼できる不動産会社の選び方!ポイント解説
安心して売買契約書の作成を任せられる不動産会社を選ぶには、適材適所の観点も必要です。
筆者は、都市部で売れ筋の不動産を売買する場合、大手不動産会社が適していると考えています。
一方、地方では、そのエリア特有の事情や法令上の制限が存在するため、その地域に詳しい不動産会社に仲介を依頼することが必要になります。
ただし、地方の不動産会社には当たり外れが大きいという問題もあるため、信頼できる不動産会社をどう探すかも重要なポイントです。
都市部ならコンプライアンス体制が整う「大手」
契約書の完成度を考えると、一般的には大手不動産会社が安心です。
大手不動産会社では、独自のリーガルチェックを経た売買契約書のフォーマットを使用し、最新の法改正に対応する社内研修も行われています。
筆者は三菱地所系列会社のウェブ制作の仕事を担当したことがありますが、そのコンプライアンス意識の高さに驚かされました。
このように、コンプライアンス体制がしっかりしており、売買契約書や重要事項説明書の完成度や安心感が高いことを考えると、まずは大手不動産会社をお勧めします。
例えば、首都圏であれば、三菱地所系列が運営する「タクシエ」というサービスがおすすめです。タクシエは、業界トップの大手不動産会社からエース級の社員を集め「3人の担当者から売却のアドバイスをもらえる」という、新しい発想のサービスです。
TAQSIE(タクシエ)|公式サイト
また、業界で唯一、価格査定の正確性をうたい、精密な価格査定をもとに値引きせず短期間で売却する「三井不動産リアルティ(三井のリハウス)」もおすすめです。
三井のリハウス|公式サイト
都市部の不動産を安心して売却したい場合は、こういった大手不動産会社に相談するのがいいでしょう。
地方の法令に詳しい「地元不動産業者」の選び方
地方では、大手不動産会社が対応していないことが多く、市街化調整区域など法令上の制限がかかる区域が多く存在します。農地法、港湾法、森林法など、都市部では見られない法令の制限がある場合も多いため、その地域に詳しい不動産会社に仲介を依頼するのが安心です。
しかし、地方の中小不動産会社は、その実力にバラツキが大きい点が問題です。
その点を踏まえ、以下の記事では、地元の不動産会社の探し方について詳しく解説しています。ぜひご参照ください。
また、地元の有力な不動産会社を探すなら、不動産一括査定サイト「リガイド」というサービスがおすすめです。
筆者の実験でも、リガイドは地方の不動産市場にも強く、他サイトでは登録不動産会社が少ないエリアであっても対応可能なことが多いと判明しています。
Re-Guide(リガイド)|公式サイト
不動産一括査定サイトは査定額を信用しすぎない
不動産一括査定サイトを利用する際には、いくつかの注意点があります。
不動産一括査定に入力すると、6~10社程度の不動産会社に情報が転送され、各社が競争することになります。
このため、実際より高い査定額を提示する不動産会社も多く、実際にはとうてい売れない金額の査定を出してくることもあります。
高すぎる査定額を信じて売り出してしまうと、物件がなかなか売れず、値下げを繰り返してやっと成約するという事になりがちです。
この点について、詳しくは以下の記事で解説しています。ぜひご一読ください。
まとめ「売買契約書は早めに送ってもらおう」
不動産の売買契約時に不動産仲介業者から渡される書類には、不動産の売買契約書と重要事項説明書の2つがあります。筆者は、どちらも同じくらい重要だと考えています。
重要事項説明書は、主に不動産の買主に対して、その不動産を購入する前に知っておくべき重要な項目を記載した書類です。しかし、買主だけでなく、売主も目を通しておく必要があります。
一方、不動産売買契約書は、誰が誰にどの不動産を売却するのかを明確に記載し、当事者間の合意内容を証明するために作成された文書です。
これら2つの書類はしっかりと確認する必要がありますが、特に注意すべき点は以下の通りです。
- 仲介に入る不動産業者についての記載は必ず確認する
- 売買契約書の特約条項や重要事項説明書の備考欄は意外と重要なので、しっかり理解する
- 重要事項説明書の中で、敷地と道路の関係や法令上の制限を記載した部分は確実に理解する
また、この記事前半でも触れている重要ポイントについても再度確認してみてください。
売買契約書等は早めに送ってもらい確認する
最後に注意しておきたいのは、不動産の売買契約書や重要事項説明書は事前に送ってもらい、内容を確認しておくべきだということです。
多くの不動産会社では、売買契約の当日に売買契約書と重要事項説明書を持参し、そこで初めて売主や買主に書類を渡すことがほとんどです。
筆者は10年以上の実務経験を持つ宅建士ですが、それでもその場で契約書を渡されて完璧にチェックするのは不可能です。
まして、初めて不動産取引をする方にとっては、見落としが発生する可能性がかなり高いといえるでしょう。
そのため、遅くとも数日前には売買契約書と重要事項説明書を送ってもらうように依頼してください。PDFでメールに添付してもらえれば十分です。
そして、この記事で解説したポイントをしっかりと確認し、売買契約に臨むようにしましょう。
沖縄の不動産売買ならトーマ不動産へ
沖縄の不動産売買に関しては、トーマ不動産にご依頼ください。トーマ不動産では、事前にしっかりとした売買契約書や重要事項説明書をお渡しし、納得がいくまで確認していただける体制を整えています。
また、不明点があればていねいにお答えいたします。
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