不動産を売ろうと考えたとき、「売主の仲介手数料が無料」という広告を目にしたことはないでしょうか。沖縄では、この種の広告が本土よりはるかに目立ちます。
売主の仲介手数料を無料にすること自体に、法律上問題はありません。
しかし、2025年、沖縄県内で「売主手数料無料」を掲げていた不動産会社が行政処分の対象となりました。
処分の背後にあるのは「囲い込み」と呼ばれる行為です。つまり、本来なら法令で定められているレインズ(指定流通機構)への登録を行わず、売出情報を他社に対して開示しないという手法。それに対して、指示処分が行われたのです。
この記事では、宅建士として沖縄の不動産実務に長年関わってきた筆者が、沖縄の不動産市場に特有の問題を交えながら、売主が本当に損をしない選び方をお伝えします。
この記事は、宅建士資格を保有するアップライト合同会社の立石秀彦が制作しました。
売主の仲介手数料が無料になる仕組み

そもそも仲介手数料とは、不動産会社が売買をまとめたときに受け取る成功報酬です。法律(宅地建物取引業法)で上限だけが決まっており、売買価格が400万円を超える場合は「売買価格×3%+6万円+消費税」が上限です(※2024年7月以降、800万円以下の物件は特例あり)。
不動産売買には、売主側と買主側にそれぞれ不動産会社が付く「片手仲介」と、1社が売主・買主の両方を担当する「両手仲介」があります。
売主の仲介手数料を無料にできるのは、原則として両手仲介が前提の場合だけです。
両手仲介と片手仲介

日本の法律が本来予定しているのは、下段の片手仲介と思われます。A社、B社が協力して仲介業務を行い、それぞれが売主と買主から仲介手数料をもらいます。アメリカ(の多くの州)では、これしか認められていません。
しかし、たまたまA社が買主も見つける場合があります。それが上段の「両手仲介」。
これは合法です。
しかし、「売主仲介手数料無料」というモデルを成立させるためには、何が何でも不動産会社が自社で買主を見つけてくる必要があります。つまり、両手仲介以外ありえないモデルなのです。
ここに「囲い込み」が生まれる構造的な理由があります。
囲い込みとは何か?

「囲い込み」とは、売主から専任媒介(または専属専任媒介)を受けた不動産会社が、他社からの物件問い合わせや紹介依頼を意図的に断り、自社だけで買主を探そうとする行為です。
国土交通省もこれを問題視し、「売主の成約可能性を狭め、利益を損なう可能性がある」と明示しています。「囲い込み」について、詳しくは以下の記事で解説しています。
沖縄で話題になった「売主手数料無料の会社」に対する行政処分

2025年1月22日、沖縄県は県内の某不動産会社に対して宅地建物取引業法第65条第1項に基づく「指示処分」を行いました。「売主仲介手数料無料」を大々的にコマーシャルしている会社でした。
テレビCMで、あるいは役所の待合室のディスプレイの映像で、見たことがあるかもしれません。「売主仲介手数料無料」をここまで大胆にうたい、売り物件を募集している会社は大丈夫なのか? 多くの不動産会社がそう考えていました。
その会社が処分されたのです。処分の概要は次のとおりです。
令和4年度以降、被処分者の専任媒介契約における指定流通機構(レインズ)への登録義務違反について、処分庁が指導等を行ってきたにも関わらず、是正されているとは言い難い状況が続いている。このことは法第34条の2第5項に違反し、法第65条第1項に該当する。
処分のポイントは、次の3点にまとめられます。
- 令和4年(2022年)以降、違反が続いていた。
- 行政の指導を受けても是正しなかった。
- 法第34条の2第5項違反=レインズに登録していなかった。
ざっくりまとめると、専任媒介を受けておきながら「物件情報をレインズに登録していなかった」「他社への物件情報の共有を意図的に行っていなかった」と行政が認めたことになります。
行政(沖縄県)は、この不動産会社の違法な状態を2022年から把握しており、行政指導を行っていたことがわかります。行政指導とは、行政手続法の第32条以降に定められた手続きで、確かに強制力はありません。
しかし、行政から違法状態を指摘されても従わない会社に「売主仲介手数料無料だから、不動産を売ってもらおう」と考えていいのでしょうか?
筆者であれば「それは避けたい」と考えます。
売主仲介手数料無料がなぜ「違法状態を生む」のか?

まず前提として、日本の法体系は「売主仲介手数料無料」という状況を予定していません。そもそも無理があるのです。
なぜでしょうか?
売主仲介手数料無料の場合、仲介不動産会社は必ず「自社で買い手を見つける」必要があります。
つまり、囲い込みを行わない限り利益が上げられないといういびつな仲介契約(媒介契約)の形態なのです。宅地建物取引業法も、このような媒介形態は想定していません。
ですから、それ自体違法ではないものの、違法な取引を目指さない限り収益があがりません。
「売主手数料無料」を掲げた専任媒介と、レインズ未登録。構造的な囲い込みを狙っていた、と思われても仕方がないでしょう。
そうであっても、売主仲介手数料無料が本当に売主の利益になるのなら、まだ弁解の余地はあります。しかし、売主は仲介手数料よりも大きな金額を失っている可能性があります。
囲い込みで売主が失う金額

では、囲い込みにあった場合、売主は実際にいくら損をするのでしょうか。
正確な計算は難しいですが、参考になる研究データがあります。
日本不動産学会誌(2017年)の実証研究によると、仲介会社の両手仲介割合を指標として分析した結果、「一部両手」グループは片手仲介を基準にした場合より平均成約額が約168万〜232万円低く、「すべて両手」グループは約351万〜1,056万円低いという傾向が確認されています(注1)。
これは会社単位の集計データであり、個別の物件に直接当てはまるわけではありません。ただし、方向性は明確です。囲い込みを前提とした両手仲介は、売主の成約価格を押し下げる傾向があると考えられるのです。
海外の研究も同様の傾向を示しています。米国の調査では、不動産情報システム(MLS)に公開して販売した物件は、非公開で売却した物件より1.5〜17.5%高く売れたとされています。
仮に3,000万円の物件が囲い込みによって成約価格が3〜5%低下したとすれば、損失は90万〜150万円。仲介手数料(売主側96万円)の節約額と、ほぼ同額か上回ります。節約したはずの手数料を、売却価格の下落で取り戻せないどころか、損失の方が大きくなるケースも十分に起こりえます。
国土交通省は明示的に、囲い込みが「売主の成約可能性を狭め、利益を損なう可能性がある」と述べています。これは行政の公式見解です。
売主が今日から確認できること

売主が囲い込みを防ぐために、契約後すぐに確認できることが3つあります。
① 媒介契約書の種類を確認する
「専任媒介」または「専属専任媒介」であれば、レインズ登録が法律上の義務です。一般媒介はレインズ登録義務がありません。
② レインズ登録証明書を受け取る
専任媒介の場合、業者は契約後7日以内(専属専任媒介は5日以内)にレインズへ登録し、登録証明書を売主に交付する義務があります。これを受け取っているか確認してください。受け取っていなければ、その時点で違反の可能性があります。
③ レインズのステータス管理機能で「公開中」かを確認する
国土交通省は、売主自身がレインズのステータス管理機能を使って登録状況を確認できると案内しています。「公開中」になっていれば他社から客付可能な状態です。「取引中」や「非公開」になっていれば、囲い込みを疑う理由になります。
(参考)「不動産流通市場の透明性・効率性の向上に向けた取組」国土交通省
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沖縄県内では、トーマ不動産、東京や大阪では提携各社が無料セカンドオピニオンに対応しています。
媒介契約の種類と「今後は一般媒介での囲い込みに注意したい」理由

ここまでは、売主仲介手数料無料(0円)の危険性について解説してきました。問題をより深く知るためにも「売主仲介手数料無料」の会社が、どの媒介契約を勧めてくるかにも注目しておいてください。
| 媒介の種類 | レインズ登録義務 | 活動報告義務 | 囲い込みの発覚しやすさ |
|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 5日以内 | 週1回 | 比較的発覚しやすい |
| 専任媒介 | 7日以内 | 2週に1回 | 発覚しやすい |
| 一般媒介 | なし | なし | 極めて発覚しにくい |
先ほど紹介した会社は、専任媒介(または専属専任媒介)を結んだのにレインズに登録しなかったことが、処分につながりました。その点、一般媒介を勧められると、引き続き脱法的な運用が可能になります。
一般媒介はレインズへの登録義務も活動報告義務もありません。「売主手数料無料」+「一般媒介」という組み合わせは、業者が物件情報を囲い込んでいても、売主には確認手段がほとんどない状態だからです。また、法律の文理上、処罰の対象にもなりません。
筆者は今後、「あえて一般媒介を締結しつつ、囲い込みを行う」という方向に向かう可能性もあるとみています。この点、引き続き注視しておいてください。
なお、専任媒介または専属専任媒介で、かつレインズ登録と活動報告がきちんと行われているなら、それだけで透明性の基準を、一定程度満たしています(もちろん一般媒介でレインズに登録してもかまいません)。
内地では一般媒介での囲い込みも存在
実は内地(本土)では、すでに「一般媒介での囲い込み行為」が問題化しています。あえて一般媒介を選びながら「他社とは契約しない」方向に誘導。そのうえで囲い込むという手法です。確かに一見すると違法ではないため、行政の処分を逃れる脱法スキームとして、静かに広まりつつあります。
仲介手数料「無料」より「透明性」のほうが大切

売主にとって、不動産売却で本当に重要なことは何でしょうか。
仲介手数料を節約することは、たしかに意味があります。3,000万円の物件なら96万円(税込)は大きな額です。
しかし、囲い込みによって成約価格が100万〜200万円下がれば、節約した意味がなくなります。さらに、売れるまでの期間が延びることで、固定資産税・維持費・ローン返済が余分にかかることも見落とせません。
この記事で言いたいのは「無料の業者は選ぶな」ということではありません。仕組みを理解したうえで、透明性のある会社かどうかを見極めてほしいということです。
見極める基準はシンプルです。
- レインズ登録証明書をすぐに交付してくれる
- 他社からの問い合わせ状況を報告してくれる
- 「いつまでに、どんな媒体で、どう売るか」を具体的に説明できる
こういった点を確認すれば、手数料が無料であっても透明な取引ができる可能性もあります(原理的には難しいですが)。逆に、これらを曖昧にしたまま「無料」だけを前面に出してくる業者は、注意が必要です。
判断に迷ったら、セカンドオピニオンを

「いまの契約、大丈夫だろうか」「この会社に任せていいのか」——そう感じたとき、相談できる場所がないまま抱え込む売主が多いのが現実です。
トーマ不動産では、売却中の方・売却を検討中の方からのセカンドオピニオン相談を受け付けています。レインズの登録状況の確認方法、媒介契約の見直し、現在の販売活動への疑問など、宅建士が中立的な立場でお答えします。
相談だけでも構いません。まずは現状を一度、整理してみてください。また、以下の記事で私たちが扱ったセカンドオピニオン事例を紹介しています。
まとめ:売主仲介手数料無料には問題点がある

売主手数料の「無料」は、うのみにすると損をするリスクがあります。
売主から手数料を取らないビジネスモデルは、1社が売主と買主の両方を担当する「両手仲介」を前提としているからです。自社だけで買主を見つけなければ収益が得られないため、他社への物件紹介を意図的に止める「囲い込み」が起きやすい構造になっています。
日本の審査付き研究論文(注1)でも、囲い込みを前提とした両手仲介は成約価格を押し下げる傾向があることが示されています。3,000万円の物件で成約価格が3〜5%下がれば、節約できたはずの手数料(約96万円)と同額か、それ以上の損失になりかねません。
沖縄では、この問題が特に深刻です。業者間の人間関係が近い土地柄から、囲い込みが公然と行われるケースがあり、専任媒介であってもレインズ(不動産会社間の物件共有システム)に登録しない会社が少なくありません。2025年1月には、レインズへの登録義務違反を繰り返した県内業者が実際に行政処分を受けています。
では、どうすれば売主は自分を守れるのか。
答えはシンプルです。契約後に①レインズ登録証明書を受け取ったか、②レインズのステータスが「公開中」になっているか、③販売活動の報告が定期的に届いているか——この3点を確認することです。これができている会社なら、手数料が無料であっても透明な取引が期待できます。
逆に、これを曖昧にしたまま「無料」だけを売り文句にしてくる業者には、注意が必要です。
「手数料が無料かどうか」ではなく、「透明性を確保して売ってくれるかどうか」。この基準で不動産会社を選ぶことが、沖縄で不動産を売る際に最も大切な視点です。
今の売却方針が不安だ、不信感がある、という場合は無料のセカンドオピニオンをご利用ください。
注1:一般財団法人土地総合研究所の白井慧一氏および麗澤大学の大越利之氏による論文「中古住宅市場における両手仲介と手数料率,成約価格への影響」で明らかにされました。

